牛窓で地域医療と交通のシンポジウム

地方創生の政策で重要課題として、しばしば取り上げられる、地域医療と地域交通をテーマとしたシンポジウムが、3月21日、瀬戸内市牛窓のあいの光ホールで開催されました。主催は地域共生社会研究会です。

医療・介護・福祉サービスは、社会的共通資本としての性質を持ち、特に日本では比較的公平なサービスが提供されていると国際的な評価が高いとされてきました。しかし、世界一の高齢化を背景として高齢者の介護、医療に関する問題が国民にとって切実なものになるとともに、「医療崩壊」という言葉が各種メディアで叫ばれ、医師不足や公立病院の閉鎖などの問題が起きています。地域医療、特に中山間地域ではその問題は顕著となり、他にも赤字体質の病院、国民健康保険の財政的な危機など、医療制度の先行きに影を落とす問題は多く見られる事態となりました。
とりわけ、岡山県においては、中山間地域や島しょ部の医療・介護・福祉サービスをみると、病院通いや、介護・福祉サービスを受けるための移動手段の確保が、地域モビリティ維持による総合的な社会共通資本維持の問題として横たわります。
ここでいう社会的共通資本とは、「ひとりひとりの人間的尊厳を守り、魂の自立を支え、市民の基本的権利を最大限に維持するために不可欠な役割を果たす」「自然環境、社会的インフラ、制度資本の三つの範疇」と定義づけています(宇沢弘文『社会的共通資本』(岩波新書))。
また、近年は、世界規模での新型コロナ災禍拡大により、陸路、海路、空路、共に人の移動の自粛や規制により公共交通の利用は減少、交通事業者が深刻な収益減に直面することを余儀なくされました。各国政府ともに、新型コロナ災禍対策として、経営不安に陥った企業を公的資本で救済する仕組みの整備が進められるなか、企業は生き残りをかけた厳しい自己判断を迫られる事態に直面しています。
特に地域における公共交通事業は、少子高齢、人口減少が急速に進むなかで需要減少が続き、それに拍車をかけるように、今般、新型コロナ災禍により事業を廃止、休止する事業者が相次ぐなど、新型コロナウイルス感染症の影響は、バス業界、鉄軌道業界、旅客船業界をはじめとする公共交通事業者の経営に対して極めて深刻な事態を生起させ、「地域の足」は存続の危機に瀕しています。

こうした社会の環境変化を踏まえて、主催者を代表して、地域社会に医療で貢献されている青木佳之先生が開会挨拶をされました。続いて瀬戸内市の武久顕也市長が来賓挨拶されました。
シンポジウムでは、午前の部は、小職からSDGsが唱える、「誰ひとり取り残さない社会」の実現に向けて、地域住民が安心して生活できる社会を目指す岡山大学の活動について紹介させて頂きました。そして、(一財)地域公共交通総合研究所の大上真司副理事長が、同財団が実施した、「公共交通経営実態調査」の結果を紹介しながら、交通権の確保に向けた官民の在り方について地方創生の観点から考察しました。

午後の部は、岡山大学から理事(研究担当)副学長の那須保友(次期学長)が講演と続くパネルディスカッションのコーディネーターをつとめました。加えて講師として、吉備中央町の山本雅則町長や 西粟倉村の青木秀樹村長に医療界の専門家を加えた顔ぶれが、最新事情の紹介を含めた自治体経営や地域医療を軸としたリレー講演を行いました。
最後に全員が確信に触れる提案や提起を行い、会は盛会のうちに閉会となりました。
誠に多くの学びを頂きました。
地方創生は道半ばながら、たゆまぬ前進を続けて参ります。

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