2024年10月23日から30日まで、フランスへ調査出張をいたしました。
この度は、欧州連合や助成機関である欧州研究執行機関 (REA)が支援、欧州開発研究所 Institut Européen d’Études du Développement (IEED)が主催するHESPRIプロジェクトの国際ワークショップへ参加しました。HESPRIによれば、現在の高等教育 (HE:ハイヤー・エデュケーション) の世界を形作った二つの力があると問題提起がなされています。つまり「大学の統治」は、第1には「人道主義的伝統」として、人間の本性(人間性)への関心と愛情、人間の存在に価値と尊厳を認め、歴史的には,西欧ルネサンス期にあらわれた古典的学芸の復興を通じて人間性の陶冶(とうや)をはかろうとする学問・教育理念を原型とした、人道主義的伝統を現代的に如何に解するかが問われています。そして第2には、「新自由主義への改革」について考える必要があります。すなわち、過去 30 年間のアメリカ、イギリスの経済政策が世界に影響を与えた、市場原理主義を基盤とした経済学説が唱えた、新自由主義に対する改革について省察を行ない、「公共政策を強化して高等教育部門の競争力を向上させる革新的な戦略」を推進する流れを如何に醸成するか、HESPRIは、この二つをメインテーマに掲げた施策の推進に取り組んでいます。
また、そこでは、伝統的な学術的価値観と新自由主義的な学術的価値観の間の緊張、高等教育の質の偏った評価と査定、科学的成果の歪んだ測定によって決まる非効率性、パンデミックに直面した以降の大学のデジタル変革など、いくつかの大きな危機を克服するための代替措置を検討、提案しています。
この世界クラスの文化的に多様なコンソーシアムを基盤とする HESPRI は、政府、政策立案者、大学に証拠に基づく推奨事項を提供し、現在の課題に対応して高等教育政策のさまざまな要素を調整することを目指しており、そのコンソーシアムに、アジア諸国からは、岡山大学と同志社大学が名を連ねています。そして、現在、高等教育の公共政策の向上を目指しているHESPRI では、欧州連合の Horizon Europe 研究イノベーション プログラムによって資金提供されている 4 年間のプロジェクトで、Marie Skłodowska-Curie Actions (MSCA) – Staff Exchanges の下で、HORIZON-MSCA-2021-SE-01 という公募が行われています。
ただし、HESPRI プロジェクトは、助成契約番号 101086224 に基づき、欧州連合のホライズンヨーロッパ研究イノベーションプログラムから資金提供を受けていますが、そこで表明や報告された見解や意見は、各研究者や有識者の見解であり、必ずしも欧州連合または助成機関である欧州研究執行機関 (REA) の見解や意見を反映するものではない旨、そして欧州連合や助成機関も、それらについて責任を負わない旨、を謳っています(自由闊達な議論を奨励するが、責任は負わない)。
さて、10月24日、岩淵泰先生に帯同させて頂き、パリ7区 にある 社会科学分野の特別高等教育機関である、パリ政治学院 (通称:シアンス=ポ(Sciences-Po)へ参り、ジェローム・オスト教授の研究室を訪問しました。卒業生にはフランスのミッテラン、シラク、オランド、マクロンなど歴代大統領をはじめ、政治家や国際機関トップ、企業経営者が名を連ねる名門中の名門大学です。そのレベルはハーバード大学、オックスフォード大学と比肩されているとのことです。
ジェローム・オスト教授から、欧州における大学統治の潮流について、レクチャーを頂きました。とりわけ、フランスでは、都市ごとに大学が再編・統合される改革が進んでいます。これは都市間での創意工夫による独自性発揮を図る、ある意味、大学が高等教育機関として、地方分権システムの展開基盤を支える機能、役割を担ってきたと理解しました。その基本路線には変化はないものの、さらに独自性に磨きをかけるための発想や行動が希求されているとのお話だったと理解しました。
岩淵先生からは、岡山大学の大学改革の方向性と目指すべきゴール、そのための具体的な実践教育活動について話題提供をいたしました。日欧の比較による議論が大いに盛り上がりました。
翌日、10月25日は、パリオペラ座の近くにある会場にて、欧州連合や助成機関である欧州研究執行機関 (REA)が支援するHESPRIプロジェクトの国際ワークショップに参加いたしました。
この国際ワークショップの責任者である、Nicoleta Laura POPA(ニコレータ・ローラ・ポパ)Project Coordinator(プロジェクトコーディネーター)博士が、お迎えくださいました。彼女は、ルーマニアにあるUniversity Alexandru Ioan Cuza(アレクサンドル・イオアン・クザ大学)のFaculty of Psychology and Educational Sciences(心理教育学部)教授です。
岡山大学からは、地域共創本部から副本部長の岩淵泰准教授と教育推進機構の石田衛教授が報告者として参加、床尾あかね准教授と弊職がオブザーバー参加いたしました。さらに日本からは同志社大学ライフリスク研究所の高波千代子研究員が参加しました。
興味深い報告として、ソルボンヌ大学のウイリアム・サック教授がされた「Comparative Insights into Science Education : A Secondment Report from Okayama University」は、岡山大学に言及頂いた内容であり、世界最高峰の研究者から本学の教育について分析・報告いただいたことに感激いたしました。
こうして、各国の研究者から当該国の高等教育及び大学改革の状況と他国比較について報告を受け、その各報告に対して、かなり、突っ込んだ意見交換がなされるというスタイルで国際ワークショップが進みました。日本では、一般的に時間優先で、こうした会議や学会が進行するのに対して、徹底した議論を重ねながら、理解を深めるという、これこそまさにオーソドックスなワークショップである、との感想を強く持ちました。そして、昼には、会場へケータリングの食事が運び込まれ、ランチも会場で取りながら、議論は夕方過ぎまで続けられました。
弊職と床尾准教授は、議論がフランス語で進行したこともあり、午後の部は失礼して、まちなかの調査へ向かわせて頂きました。
こうした限られたメンバーながら、グローバルに集った研究者が、同一テーマで徹底討論をする場に参加させて頂いたのは、初めての経験であり、誠に貴重な経験をさせて頂きました。併せて、現在、進んでいる岡山大学改革について、外部のグローバルな視座からの意見や考えをお聞きしながら、岩淵先生と石田先生から岡山大学の改革を世界に報告、併せて、グローバルな視座から、自らの大学改革を見つめるという、得難い経験となり、学ぶところ大でありました。下記にIEEDが当日の様子を掲載しています。