人を大切にする経営学会第10回全国大会

人を大切にする経営学会の第10回全国大会が、9月9日(土)~10日(日)の二日間、東京都豊島区の池袋にある立教大学池袋キャンパスのタッカーホールをメイン会場として開催されました。新しい資本主義=ステークホルダー資本主義が唱えられるなか、儲け至上主義経営やブラック企業の見直しを目指す学会の全国大会です。岡山では萩原工業様、英田エンジニアリング様、フジワラテクノアート様、OHK様などがメンバーです。
今大会のメインテーマは『人口減少社会における人を大切にする経営』です。『人口減少』は、労働力不足、消費の低迷、社会インフラの衰退など数々の問題を引き起こします。当学会が提唱する、①社員とその家族、②社外社員とその家族、③現在顧客と未来顧客、④地域住民、しょうがい者等社会的弱者、⑤株主・支援機関等を幸せにするという「五方良し」の経営の考え方は、人口減少社会において、各企業や団体にとって、人財の確保や成長、企業の生産性・価値向上のなどの多くのメリットを生み出す源であると考えています。

初日の9日は、第13回「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞報告会(受賞企業プレゼンテーション)があり、2022 年度研究奨励賞・2022 年度経営人財塾(5 期)優秀賞の授与式、そして交流懇親会でした。
二日目の10日は、朝から年次総会が開催され、重要事案としては、本学会の社団法人化と本学会の思考をまとめた事典の刊行案が提案され承認されました。
続いては、特別講演があり、特別講演1として、サラヤ株式会社代表取締役社長の更家 悠介 氏 (第13回「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞 経済産業大臣賞受賞企業)が、「ブルーオーシャンと万博、そしてビジネスと経営」と題して、また、特別講演2は、株式会社北國フィナンシャルホールディングス常務執行役員人材開発部長の横越 亜紀 氏(第13回「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞地方創生大臣賞受賞企業)が「Quality Company, Good Company. 」と題して見事な講話をしてくださいました。
そして昼食をはさんで、午後からは、分科会研究発表となり、第1分科会 地域・社会貢献と企業、第2分科会 人口減少社会における人財確保と育成、第3分科会 自由論題に分かれて議論を深めました。今回の大会では、その第 2 分科会発表1(13:10~13:50)において、三村 聡(岡山大学) と直原 真弓(岡山県赤磐市政策推進課)の二名で「地場産業と幸せを守る人財確保に向けた産官連携」をテーマに赤磐市における産官連携による子育て都市の共創٠創造の取組みを報告させて頂きました。直原真弓さんは、赤磐市の総合計画や創生総合戦略の策定など同市の政策立案、遂行、結果検証に携わっています。岡山大学の社会人大学院で小職が修士論文の指導を担当いたしました。その学びの実践的な成果報告を兼ねています。赤磐市からは前田正之副市長が随行してくださり、報告内容についてフォローの挨拶を頂くことができました。会場からは、多くのご質問や感想をお寄せいただき、大いに議論は深まりました。

ちなみに発表では、今回の赤磐市での取り組みをとおして、①自治体職員自らが「地域産業・企業の活性化は経済界のテーマ」ではなく「地域社会全体のテーマ」であると認識できた。②住民に対して産業振興が地域社会に果たすべき役割は何か説明できるようになった。③産業振興の必要性を地域の強み・弱みを踏まえて総合計画や創生戦略から理解、説明できるようになった。④産業振興を進める際には従業員向け、結婚、出産、子育て、介護など各種補助金などの支援制度を説明できる人財養成と専門部署の設置が必要との結論に至った。⑤公開情報を活用して地域内外の人的ネットワークの組織化と活用できる能力を磨いた、などの諸点に集約出来たことを報告いたしました。
真のウェルビーングを到達目標に置いたSDGs の推進を基本的な視座に据えた、地元企業と自治体が連携・共創する体制整備が緒に就き、まちづくりを進める際に合意形成を行うプロセスに市民協働の精神が存在するように、地方創生と産業振興のプロセスにも「人を大切にする」というシビックプライドとしての大切なマインドが存在するため、そのプライドを維持しつつ、今後は、企業経営者のトップや社員、そしてステークホルダー全員に、如何に持続可能な地域社会づくり活動と地域の産業振興活動が共存共栄する、利他の心に根ざす、私たち『人を大切にする経営学会』がめざす「五方良し」活動が築けるかが課題となります。この「五方良し」の考え方に基づきながらも、さらに、自治体と企業の関係性を強化した「地域版五方良し」とでも呼ぶべき活動が、地域社会で必ずや築けると確信しています。その根拠は、「まちづくり」と「産業振興」を進めるための人財育成は、同義では無いにしろ重なり合う共通項が多く存在すると思料するためです。こうした活動への参画可能性を、地域市民や自治体職員、経営者や社員、そしてそれらを取り巻く社会の構成員全体に対して動機付けできるか、「自らの企業は自らがステークホルダーと共に守り、自らの地域も自らが地域を構成する人たちと共に守る」精神を醸成することから始まると思います。今回の赤磐市の取組みは、その第一歩であると位置づけます。
 自治体の責務は、人口減少が進む地方社会において、いかに暮らしやすく働きやすい社会環境を提供できるかであると言えます。さらに、その実現に向けて、それをコーディネートする人財を如何に育成して、また時には外部から専門家を手当てして実行計画を立て予算措置を行うかにかかっています。同時に自治体担当者と企業の総務や福利厚生担当者が連携して、どこまで情報共有を行いながら「地域版五方良し」に向けた、より良い関係性の構築をめざして努力を重ねていくか、赤磐市は企業と対話ができる実務家経験を持つアドバイザーを起用しながら企業の真のニーズを聞き出す流れを具現化させてきています。
結論として、自治体と企業が相互に課題を持ち寄り、信頼関係を組織的に決定することが、産業振興を核としたまちづくりを進める際の鍵となり、その合意形成プロセスが人口減少社会における地域の持続可能性を確かなものにするために重要であるとの結論を得ました。換言すれば、これまでは補助金の申請に纏わる窓口での審査が本業であった自治体職員が、これからは地元企業と積極的に関りを持ち、地域企業へ進んで出かける自治体職員に脱皮する時代になってきていると言えます。つまり、「待ちから攻めへ」自治体の仕事そのものが変貌を遂げる必要性が顕在化したのです。その意味においては、互いが互いを信じあい歩み寄る「地域版五方良し」構築に向けた思考が、自治体職員、企業経営者双方に求められる時代となったと確信しました。

そして総括・閉会式が行われ、次回の第11回大会は、法政大学市谷キャンパスでの開催であることが宣言され無事に終了いたしました。世界をごった煮にしながら栄える池袋での大会は興味深く、この街の品格の象徴はセント・ポール(立教大学)であり街の輝きを支えています。大会期間中、西口立教通り近くのベトナム料理でひと息いれました。気取らないけど“レベル高し”が池袋の真骨頂であります。