岡山の古い町並みとして有名なのは天領として栄えた倉敷美観地区です。広島では、府中市上下町が、江戸時代は石見銀山から銀を運ぶ中継地として栄えた幕府直轄の天領でした。「上下」の地名の由縁は、町に降った雨が、北の日本海に注ぐ川と南の瀬戸内海に注ぐ川の上下に分かれて流れ出すこと(分水嶺)から命名されたといわれています。
6月17日、まず、府中市の中心市街地を訪ねました。ここ府中は、奈良時代に備後の国府が置かれ、備後国の政治・経済・文化の中心地として栄えた、1300年の歴史を誇るまちです。駅近くに明治5年創業の国の登録文化財で、大正7年築庭の回遊式庭園を持つ料亭旅館「恋しき」があり、また、金毘羅神社では「日本一の石灯篭」を見物しました。
観光案内所で、上下までのルートを教えてもらい、30分ほど車を走らせました。JR福塩線の上下駅前に車を留めて散策を楽しみました。かつて栄えたことが容易に想像できる、白壁、なまこ壁、格子戸、誠に重厚な造りの古い建物が続きます。昔ながらの飲食店や焼き肉屋が目を引きます。さらにレトロでお洒落なカフェあり、上下画廊(骨董店)あり、土産物屋あり、ぶらぶら歩きに楽しい銀山街道の街並みが続きます。そして田山花袋の小説『蒲団』のヒロイン、横山芳子のモデルである女流文学者の岡田美知代の生家を改築した上下歴史文化資料館、広島県文化百選の一つである上下キリスト教会、江戸時代の町屋・旧田辺邸、見張り櫓が残る旧警察署、大正時代に建てられ、芝居・映画の上演などが行われる劇場として賑わっていた翁座など、興味深い建物が目白押しです。
数々の歴史に彩られた街並み・建造物群は、栄華を誇った天領の賑わいある人の往来、そこに育まれた品質の高い暮らしや文化を思い起こさせてくれるに余りある佇まいでした。
いにしえの人の営みを感じさせてくれた素敵な時間を過ごせました。