歳を重ねますと朝の目覚めが早いです。
5月23日、二泊した朝は5時過ぎから朝風呂を楽しみました。
峡谷に架かる赤い橋が鮮やかです。
私のような多くの年配者が、並んで露天風呂につかりながら、無言で外の景色を眺めます。皆さん、現役を引退された方々でしょうか、こうしたゆるりとした時間を過ごす余裕が作れず働き詰めの方も多いのではないかと、余計な詮索をしてしまう自分も、いまの時間や空間は初めてかも知れません。
さて、朝食を頂いてから、チェックアウトをして、再び、富山地方鉄道で、北陸新幹線と接続する新黒部駅まで戻り、JR黒部宇奈月温泉駅の売店で富山銘菓「雷鳥の里」5ケ入りを買い求め、お茶と共に頂きながら、二駅先の新高岡駅を目指しました。在来線での移動が嘘のように、お菓子を楽しむ暇もないくらい、あっという間に到着です。
駅構内にある高岡の街を作っ加賀藩主第2代藩主である前田利長公の大兜のオブジェにご挨拶をしてから、駅前でレンタカーを借りまして、一路、飛騨白川郷を目指しました。
トヨタ自動車の研究所時代に白川村の世界遺産登録に関わる仕事をお手伝いして以来、かれこれ20年ぶりくらいの訪問でしょうか。第一印象は、河川敷に駐車場が整備され、変わらぬ庄川の水の清らかさと遠い山々の美しさ、そして神社の境内の落ち着いた風情が出迎えてくれました。
その一方で、気のせいでしょうか、合掌造りの古民家の再生が進み合掌造りの建物の数が増えたように感じました。
また、インバウンド政策により、海外からの観光客の方が激増したと言って過言でないと思いますが、完全にパッケージ化された観光地としての風情となり、かつての素朴さを感じさせる里山の角が取れて、村内全体が、スマートに造られてしまった感が否めませんでした。その要因のひとつは、商店の軒先につるされた、浅草寺門前に代表される外国人観光客向けの派手な色使いの土産物が多く目を引いたためかもしれません。
そもそも白川村は特産品が極めて少ないため、土産物は中国はじめ国内でも県外で製造されたものが多く、それを飛騨高山市の販売会社が仕入れ、それを道の駅はじめ合掌造りの土産物屋さんで販売するケースが多かった記憶があります。食品の製造地を確認しましたら、中国産は消えているようでしたが、製造地は相変わらず愛知県はじめ県外の方が多い印象でした。
これは仕方がないことだと申せましょうが、昔から紡いできた伝統的な文化を残しながら世界文化遺産登録を守ることは大変だと改めて感じました。
地元の保存会の皆様や白川村の役場はじめ関係団体の方々のご苦労がしのばれました。
どぶろくや地元産の羊羹を土産に買い求めました。
村内のお食事処は、どこも長蛇の列でしたので、お昼はインターチェンジ傍にある、道の駅「白川郷」で、ざるそばを頂きました。ここにある合掌造りの吹き替えの様子が見学できるコーナーは、見事ですのでお立ち寄り頂きたいと思います。
さて、岐阜県白川村を後にして、もう一つの世界遺産である富山県の五箇山へ取って返しました。
白川村からは国道を利用して、庄川沿い、国道156号線を富山県南砺市へ戻り、途中で「くろば温泉」に立ち寄り、白川村を散策でかいた汗を流しました。露天風呂は庄川が眺められる造りになっていて、湯質もさらりと良き湯加減でした。さらに、上平地区では、絵葉書を出すために郵便局へ寄り、さらに道の駅「上平」で土産に赤カブと五箇山豆腐の燻製を買いました。
そして、三泊目の宿である、築350年の合掌造りの民宿「弥次兵衛」にチェックインいたしました。1階の広間には、見事な囲炉裏がしつらえてありました。梁は見たことが無いほど見事な巨木です。ご亭主が出迎えてくれ、能登半島地震でもびくともしなかったと言いながら、改造した2階の和室へ案内してくれました。階段がハシゴのように急でした。とても落ち着いた雰囲気の宿であり、ほっとさせてくれました。
夕飯まで、時間がありましたので、近所を散歩することにいたしました。
重要文化財の村上家は、残念ながら拝観時刻が過ぎていました。
庄川に架かる橋からの眺めを楽しみ、100年はゆうに超えていると思いますが、境内に杉の巨木が並ぶ、民謡こきりこ節にゆかりある「越中白山宮」へ参拝いたしました。深山にあるため古くから神仏習合をはじめ、都市部とは隔絶された独自の文化を紡いできた富山県下最古の建造物だそうです。
また、水気が少なく、縄でしばっても崩れないほど身がぎゅっと詰まった堅豆腐として有名な五箇山豆腐を製造している「喜平商店」さん、さらに地元「三笑楽酒造」さんの酒蔵を外から眺めさせて頂きました。
お待ちかねの夕飯は、囲炉裏を囲みながら、茨城県水戸市からお見えになったというご夫婦と私たちの二組で、ご主人のお話をお聞きしながら、実に3時間にも及ぶ、ゆるりとした懇談の会食となりました。食事には、先ほどの「喜平商店」さんの堅豆腐、そして三笑楽さんの冷酒をはじめ、清らかな雪解け水で育てられた鯉の洗い、時間をかけて焼き上げたイワナの塩焼き、様々な山菜、そして飛騨牛、ご主人が育てた野菜や漬物と、素朴な中にも、合掌造りのお宿にふさわしい逸品が並びました。
途中で、家屋の中もご案内いただきました。
ケヤキをはじめ見事な巨木の数々と大工さんや家具や飾り職人が技の粋を駆使した家屋に息をのみました。いまでは再現できないのではないかと思われる見事な細工のオンパレードです。さらに、富山県は仏壇製造日本一ですが、まさに、加賀藩の伝統の流れも汲むであろう金箔を施した荘厳な仏壇には圧倒されました。
旅の心地よい疲れと三笑楽の酔いが身体を包み、満足して深い眠りにつくことができまし