SDGs活動が定着・継続されるなかで、2月16日、千代田区神田橋にある労働金庫連合会にて、卒業を迎える全国の大学4年生を対象として、「誰一人も取り残さない社会」を目指すためには、社会に羽ばたく若者は何ができるかを課題として、その具体的なアクションプランをSDGs思考で考える時間が持たれました。そのコーディネートを担当させていただきました。その際の主題が「ダイバーシティとインクルージョン」です。
グループディスカッションをしていただく前段としての話題提供では、小職から、この主題を正確に理解してもらうために、2023年4月22日、23日、岡山県倉敷市を会場として開催された「G7労働雇用大臣会合」を引用して会合の要諦をお話いたしました。
そのG7労働雇用大臣会合の論点は下記のとおりです。
G7各国が生産年齢人口の鈍化(減少)に直面する中、「人」の重要性はますます高まっている。
人的資本に注目して経済活力を維持していくことは、G7諸国に共通の課題である。
社会・経済の変化に即した人的資本投資と、性別や年齢等に関わらず本人の意欲・能力に応じて活躍できる環境の整備が重要である。
そして、以下を論点に議論
労働市場のレジリエンスの涵養
ポストコロナや現下の課題に対応した労働市場政策
デジタル化・グリーン化による産業構造変化への対応と人的資本への投資
包摂的な労働市場の整備
ワーク・エンゲージメントの向上とディーセント・ワークの推進
そして今回の会合では、G7各国が直面する人口動態変化、DX (デジタル・トランスフォーメーション)、GX (グリーン・トランスフォーメーション)を背景に対応の重要性が増している「人への投資」について議論がなされ、「人への投資」の中心となるリスキリングは、働く人への支援という位置づけのみならず、生産性 向上や賃上げにつながるとの観点から、「経費」ではなく「投資」であるとの理解を、G7の共通認識として確認、各国において積極的に取り組みを進める必要性があることで合意しました。
さらに、働く人がDX/GXによる産業構造変化に柔軟に対応して誰にとっても公正な形で新しい社会への移行が進むよう、そしてパンデミックの影響を強く受けた層や訓練機会へのアクセスが限られる層を取り残すことなく人への投資が行われるよう取り組むことについて、G7労働雇用大臣の決意を示しました。
とりわけ、DX/GXを踏まえた人への投資については、生産性の向上など大きな可能性が見込まれる一方で機会に恵まれない労働者が取り残されるリスクやスキル労働者不足の懸念があることを指摘しています。そして特定のグループや産業分野にも留意した訓練機会の確保を図り、十分な賃上げや、本人の希望に沿った社内外の成長分野への労働移動の後押しに取り組む決意を述べ、また、労働者本人のモチベーション維持を図るための方策や、訓練に充てる時間の確保など企業側の配慮の必要性を指摘しています。
さて、包摂的な労働市場の整備については、年齢に応じて変化する働き方ニーズに寄り添った対応や、障害者雇用の「質」に留意した支援に取り組む姿勢を示しています。また、無償ケア労働に関する女性の役割のアンコンシャスバイアス(無意識の偏見や思い込みから偏ったモノの見方をしてしまうこと)の解消や共働き共育てモデルの構築、若年者支援における教育から労働市場への移行の円滑化の重要性も指摘されました。そして、G7各国の多国籍企業等が高齢者や障害者等の雇用促進における役割も認識、ワークエンゲージメント(WE)の向上が生産性にも資するとの共通理解に立ち、その要素として、自律性、仕事の多様性、仕事の重要性、働く人の健康とウェルビーイング、 組織内で評価を受けること、適切な給与、昇進機会などを指摘、WE向上のために、格差 の是正、適切な賃金の確保、労働安全衛生の確保及び女性特有の健康課題に対応した労務管理、職場における健康の促進、キャリア形成支援、ケア労働の仕事の質の向上などに取り組む必要があるとの認識を示しています。
こうして、倉敷宣言では、「労働における基本的原則及び権利に関するILO宣言」に示された5つの基本原則に取り組む決意を示し、社会対話の尊重を認識、グローバルサプライチェーンにおけるディーセント・ワーク確保に向けて、昨年のG7合意に引き続き取り組みを進めること、技術協力を進めるとの方針で一致いたしました。
さらに、大学生への学びの具体的な事例紹介として、G7倉敷会議には、先進国の労働雇用担当大臣に加えて、国連ILO(国際労働機関)からは、ジルベール・F・ウングボ事務局長が参加されたことを紹介させて頂きました。2023年4月25日、G7に続き、ILO駐日事務所が主催、東京・六本木の国際文化会館で開催された、ILO駐日事務所創設100周年記念式典で、同事務局長は、「日本なくして社会正義とディーセント・ワーク実現における進展はなし得なかった」と日本への感謝の意を表した基調講演をされました。こうした世界の潮流を受けて、岡山大学では、小職がILOの田口晶子駐日代表のおりから面識をいただき、意見交換の機会を得ていたこともあり、現在の高﨑真一同駐日代表とも交流させていただいたご縁から、本学法学部の先生方の理解を得て、同氏を岡山大学へ招へい、「ビジネスと人権~最新の動向~」と題して、法学部の学生たちに憲法の授業で講演をいただきました。高﨑真一駐日代表は「社会正義の実現というILOのミッションは企業や働く人たち全員の理解と協力がなければ達成できない。今後の100年は政府と労働者への支援はもちろん、企業にとっても役に立つILOを目指したい」と挨拶されました(ILO日本事務所HPを参照しています)。
岡山大学での講演では、昨今の企業経営には、ESG(Environment(環境)・Social(社会)・Governance(企業統治))の3つが必要とされ、投資家や働く人(消費の主役)、評価機関などがそこに深く関わっていることについてご指摘があり、今日では「ビジネスと人権」が企業のサステナビリティーを決める時代となっている点を強調され、岡山大学からは、倉敷宣言を胸に刻み活動を持続することを、高﨑真一駐日代表にお伝え申しあげたエピソードを参加した全国の学生たちに紹介、グループに分かれて、この事例はじめ、小職の話題提供したSDGsに関する情報に対する気づきを話し合ってもらい、発表・報告していただきました。
しばしば、VUCAの時代と言われます。「VUCA」とは、以下の4つの頭文字をつなぎ合わせた造語であり、Volatility(変動)、Uncertainty(不確実)、Complexity(複雑)、Ambiguity(曖昧)を表します。つまり、現在の社会経済環境がきわめて予測困難な状況に直面しており、これまでの10年間とこれからの10年間は、その変化速度において比較できないほど速く、先が予測できない時代に突入したと説いています。
この3月に大学を卒業、4月から社会で活躍する若者に、VUCAの時代をものともせず、無限の可能性を活かして、真の意味でのダイバーシティとインクルージョンな社会を構築、「誰一人も取り残さない」社会を実現いただきたいと祈念いたしました。