岡山大学「復興まちづくりシンポジウム」

平成30年7月豪雨により、西日本を中心に広い範囲で記録的な大雨が降りました。特に長時間の降水量について多くの観測地点で観測史上1位を更新しました。被害の発生状況は、西日本を中心に、広域的かつ同時多発的に河川の氾濫、がけ崩れ等が発生して、これにより、死者223名、行方不明者8名、家屋の全半壊等20,663棟、家屋浸水29,766棟の極めて甚大な被害が広範囲で発生しました。
特に、倉敷市真備町では、主流の高梁川の勢いが急激であったため、小田川がバックウォーター現象を起こしてしまい、逆流した小田川やその支流が決壊、51名が死亡、そして特に死者の約8割が70歳以上でした。つまり、この豪雨では、西日本を中心に、広域的かつ同時多発的に水害・土砂災害が発生、今回の豪雨では、洪水浸水想定区域や土砂災害警戒区域において、避難行動を促す情報が発令されていたにもかかわらず、人的被害が多く発生して、被災者の多くが高齢者だったのです。
さて、わが国は、昔から非常に多くの自然災害を経験してきました。また、今年は関東大震災から100年の節目の年でもあります。そして、近年では、東日本大震災や九州の豪雨災害、そしてこの度の「平成30 年7 月西日本豪雨災害」などを受けて、防災に対する意識は高まりを見せています。問題まさにそのとおりであり、いま、本日、ここで再び災害が起こっても不思議ではありません。ところが、その一方で、災害の多さに対して、海外に比べると防災意識が低いという調査結果も出ています。そうです災害の記憶は「どうしても風化してしまいがち」なのです。
わたしたちは、住んでいる地域でどんな災害が起こりやすいのか、その種類と発生の確率を調べてみることが、防災意識の向上につながります。 例えば、大きな川の近くは洪水のリスクが、山間部は土砂災害のリスクが高いなど、地域によって発生しやすい災害は異なります。どのような災害が自分にとって一番身近なのかを具体的に把握すると、実際に受ける被害のイメージがしやすくなり、自然と防災意識が高まります。こうしたなかで、岡山県下をはじめ西日本の広域に甚大な被害をもたらした「平成30 年7 月西日本豪雨災害」から、この7月6日で、5 年の節目を迎えました。その間の復旧・復興においては、被災された方はもとより、国や県、倉敷市を始め、関係方面の皆様方による多大なる尽力により、ようやく復興の姿が見えるまでにたどりつくことができたと思います。
ところで、本学はこれまで、岡山ならではの「学都」を創生する取り組み、すなわち「学都構想」を継承してきました。那須新学長は、就任に当たり、新ビジョン「誇りと希望の学都・岡山大学~不易流行の経営改革~」を提唱しました。岡山大学に関わる人々、そしてこれから関わる人々(マルチステークホルダー)の持続的で多様な幸せ(ウェルビーイング)の実現を追求することを「不易」と定義し、国内外の社会情勢を見極め、国の施策や地域の思いを先取りし先導する組織経営改革・人材育成・研究を行うことを「流行」と定義しています。われわれ岡山大学教職員は、この「不易流行の経営改革」を推進し、岡山大学自らが主体的に変容しつつ地域と地球の課題解決を通して人類社会の持続的発展に貢献する「誇りと希望の学都」を目指して参ります。
今回の「平成30 年7 月西日本豪雨災害」を例にとりますと、具体的には、本学においても、発災直後から医療支援、被害を受けた河川や道路などインフラの復旧・復興支援、教育支援、農業支援、教職員・学生たちによるボランティア活動など、地域社会や自治体と連携して、専門的な知見を活かした支援活動を実施して参りました。こうした大学の知見を地域に活かして、歩んでまいる姿勢に変わりはありません。つまり「不易」であると言えます。そして、「流行」としては、私たち地球を取り巻く環境は、急速に変化しています。今後とも、本学が地域の総合的な知恵の資源として、社会に貢献できる大学であり続けるためには、新しい自然環境や社会環境の変化を、精緻に読み解き、その特徴や変化の様子を、地域の皆様方をはじめ、本学教職員に伝え、さらにSDGs の提唱する「持続可能なまちづくり」を目指すため、新たな技術やアイデアを駆使して、的確な対応をしてゆく体制を整えねばなりません。

そうした、「平成30 年7 月西日本豪雨災害」から5 年の節目を契機として、得難い経験を風化させず、同時に、新たな環境に果敢に対応して参る一歩を刻むために、この度の「復興まちづくりシンポジウム 岡山大学と平成30年西日本豪雨災害 復興を支えた総合知と災害レジリエンス」を開催、NHKさん、OHKさん、TSCさんのTV3社並びに山陽新聞社さんと毎日新聞社さんが取材に来てくださいました。
開会にあたり、基調講演として那須保友学長が「地域の命を守る「岡山大学 知行合一」の覚悟」と題して、岡山大学は、地域と一体となり、今回の災害を風化させずに防災対策を続けて参る覚悟を提起しました。

続くリレー報告では、「地域総合大学としての復旧・復興支援活動の実際」と題して、各先生方が、どのような活動を展開したのか、或いは、今回の教訓を肝に銘じて、今後の防災研究や活動に、どのように活かしてゆくのか、限られた時間ではありますが報告いたしました。社会文化科学の現場から文明動態学研究所の今津勝紀 教授、環境生命自然科学の現場から学術研究院環境生命自然科学学域の前野詩朗教授(特任)が、医歯薬学の現場から岡山大学病院救命救急科の飯田淳義助教(特任)が、現地活動と経験知、そして将来に向けた取組みについての報告でした。
続いて、当時ボランティア活動に参加した卒業生から、当時の活動の記憶とそれがいまの仕事にどう活かされているかを報告いただきました。教育学の現場から倉敷市立薗小学校の妻澤優希教諭が、被災した当時の子供たちの様子と、落ち着きを取り戻しつつある最近の様子を披露してくださいました。続いて、学生ボランティア活動の現場報告を萩原工業株式会社の板谷尚弥さんが報告してくださいました。

休憩をはさんで、対談「備えは万全か~国・自治体と大学連携の実を問う」として、リレー報告を受けて、国、自治体、NPOの皆さんからコメントを頂戴しながら、今後の大学の地域社会との連携について意見交換を実施しました。国土交通省中国地方整備局岡山河川事務所の末永敦所長が、気象庁岡山地方気象台からは菅野能明台長が、そしてNPO法人まちづくり推進機構岡山の德田恭子代表理事、締めに倉敷市建設局まちづくり部の下村隆之部長が倉敷市の未来に向かう方向性を提起してくださいました。閉会は三村由香里理事(企画・評価・総務担当)が、御礼の挨拶を述べさせて頂きました。
災害は忘れた頃にやってくると申しますが、岡山大学では、SDGsの推進を大学としての基本的な政策に掲げて活動を展開中です。そして、わたくしが学長となりまして、岡山

大学では、これまで以上に、地球温暖化を食い止め、カーボンニュートラル社会の実現をめざす取り組みを加速化させています。地域の自然災害の被害予測をまとめた「ハザードマップ」が各自治体のホームページなどで公開されているので、自分の地域の情報を確認してみてください。また、過去に起こった災害の被害状況を可能な限りリアルに知ることが防災意識の向上につながるといえます。つまり、災害が起こることを防ぐのは難しいですが、普段から災害に備えておくことで被害を軽減することはできます。「災害は避けられないから仕方ない」などと諦めずに、防災意識を高めることから始めることが大切です。
皆さん、命がもっとも大切です。今日のシンポジウムを切っ掛けとして、災害の記憶を風化させず、また、普段からの防災対策を抜かりなく行ってくださることを祈ります。
さらに、自然災害の記憶を風化させないためには継続したマスコミ報道が大切です。
ご協力ありがとうございました。