三都市シンポジウムは、理論と実践両面で、三都市が同じテーマで各都市の様子を報告しあいながら産官学の3者が語り合い学びを深めるスタイルで開催されてきました。6月24日、初日は、熊本市のまちづくりを、ホスト役である熊本大学の田中尚人先生による全体のご紹介、さらにエクスカーションを担当頂いた田中智之先生のコーディネートと解説にあわせてまち歩きを実施、現地を視察いたしました。また、商店街では富士川一裕先生もご案内をくださいました。有難いことに、本シンポの生みの親である熊本大学名誉教授である両角光男元理事・副学長先生もご参加くださり、丁寧な解説を賜ることが出来ました。こうしてエクスカーションは、熊本市のまちづくりを手本に、金沢、岡山の実情も紹介しながら比較検討する流れで進められました。
特にご案内いただいた桜町地区の再開発は目を見張るものがあります。熊本市によれば「桜町地区では、熊本桜町再開発株式会社により第一種市街地再開発事業が施行され、令和元年(2019年)9月に再開発施設が開業しました。この再開発事業により、老朽化したバスターミナルの再整備はもとより、商業、ホテル、住宅、公益施設(熊本城ホール)等の都市機能が導入されました。」とありますが、ここに至る経緯は、他の都市では真似のできないほどの産官学の連携によるまちづくりが展開されてきたと思料いたします。
その核となる熊本の中心市街地に、2019年9月に完成した、日本最大級のバスターミナルを有する複合施設「サクラマチ・クマモト」は、資料によれば、「正式名称「熊本都市計画桜町地区第一種市街地再開発事業」であり、所在地は熊本市中央区桜町3番13、14です。そして敷地面積は30,266.83m²、延床面積164,070m²を誇ります。その仕様は、商業棟は地上5階/地下1階、住宅・ホテル棟は地上15階、商業施設は約150店舗で、バスターミナル29バース(4,300台/日)を備え、公益施設として最大3,000人収容の熊本城ホールを有しています。さらにホテル205室、分譲マンション159戸、バンケット、シネマコンプレックスは9スクリーンあります。そして駐車台数832台、アクセス面では、熊本桜町バスターミナル直結、JR「熊本駅」より車で約10分、熊本市電「花畑町」電停 徒歩3分、熊本市電「辛島町」電停 徒歩1分の熊本城の麓に位置する好立地です。事業主は、熊本桜町再開発株式会社、そして商業運営会社は九州産交ランドマーク株式会社」となっています。 この見学では、各階に多くの樹木、植栽が並び、また、市民が気軽にランチやお茶、おしゃべりを楽しめるよう、緑に囲まれたなかに、テーブルと椅子が並んで配置されています。そのコンセプトは素晴らしいと感じました。特にここは、かつて東洋一といわれたバスターミナルが、この度、断然、使いやすく新築されたパブリックスペースですので、バスの時間待ちや友達との待ち合わせ、また、独りで気ままな時間を過ごせる空間といえます。そして眼前の歩道幅員を想像以上に広くとった広い空間は、欧州の旧市街地に引けを取らない歩行者に優しい数々の工夫がなされ、同時に、威風堂々とした落ち着きと余裕を感じることが出来ました。そして視線の先には熊本城が見渡せるように工夫がなされています。さらに石畳には、震災で崩れ落ちた熊本城の石垣の破片が「震災を風化させないため」の思いを込めて意匠・デザインとして埋め込まれています。そして向かいの加藤清正公ゆかりの花畑広場には、樹齢700年を超える楠の大樹が人々を見降ろしながら人々の心を和ませてくれ、その広場も自由に往来でき、また、自由に議論ができるような移動ブースまでしつらえてあります。こうしたアイデアを企画して組み立て、熊本市や施工事業者の方々と現場で顔を付き合わせながら、実際のまちづくりに反映させる努力を続けているのが、熊本大学の田中智之先生(建築)、田中尚人先生(土木)達であり、これまでの流れを作り上げてこられたのが、両角光男先生や溝上章志先生や富士川一裕先生はじめ多くの先達、先輩となる先生方です。
特に「熊本大学まちなか工房」の果たした役割は大きいものがあります。残念ながら諸般のご事情で2019年9月に場所としての同工房は閉じられましたが、その活動は現在も受け継がれており、今回のシンポジウムの主宰も同工房と謳われています。
「熊大工学部まちなか工房は、平成17年5月に上通並木坂の太陽堂薬局の2階に開設されて以来、1)学生や教員が中心市街地に身をおき、まちづくりの技術や方策を臨床的、実践的に学習して研究する場を作る、2)地元大学として中心市街地の活性化に向けた地元の取組など、社会貢献や地域連携の拠点を作る、3)大学構成員の大学キャンパス内における活動成果を発表する場を提供することを目的として、皆様と一緒に活動を展開、そして月例のまちづくり学習会や、熊本市・熊本市商工会議所・すきたい熊本協議会と共同で開催している金沢・岡山・熊本三都市シンポジウムなどの活動の他、すきたい熊本協議会との共催で実施したクリスマスイブ熊電都心結節交通社会実験など、まちづくりに関する調査・研究活動も精力的に行ってきました(溝上章志先生)。」
貴重なまち歩きを経験させて頂いた後で、15時から城見櫓を会場にシンポジウムが始まり、熊本市、岡山市、金沢市の順番に、各都市のまちづくりの発表がなされ、積極的な本音の意見交換がなされました。熊本市からは、先の複合施設「サクラマチ・クマモト」オープンまでの産官学の取組み「昼も夜も歩いて楽しめる、魅力的なまちを目指して」、岡山市は県庁通りの二車線の一車線化による歩いて楽しいまちづくりと賑わいの創出への取組みについての報告「県庁通りから眺めたまちの変容」を岩淵泰副センター長が担当、岡山市庭園都市推進課の服部立弥氏とテナントショップ岡山(㈱HIT PLUS)代表の打谷直樹氏が報告に立ちました。金沢市からはコロナ渦による来訪客の減少に立ち向かう商店街の取組みを熱く語る「アフターコロナの金沢」と金沢市の新たなまちづくりシナリオの紹介が金沢大学の先端科学・社会共創推進機構の篠田隆行准教授の司会でありました。
この三都市からの報告を受けて、城見櫓の林祥増社長のご挨拶を受け、屋上から熊本城の見事な天守閣を眺め、懇親会上に模様替えされた会場での情報交換会は、産官学が入りなじりながら、日頃の疑問や意見を都市や産官学の垣根を超えて、徹底的に話し合いをすることが出来ました。
また、司会進行は、私たち岡山大学の副センター長として岡山の地で活躍された前田芳男先生が、熊本の九州東海大学文理融合学部の学部長として戻られており、熊本大学両角光男先生の門下であることから担当されました。久しぶりにワークショップの達人である前田先生の見事な進行振りに接して、岡山での懐かしい数々の思い出が蘇りました。
こうして前田、岩淵、三村の地域総合研究センター三銃士が熊本にて久しぶりに再会することが出来ました。