オンラインで実践型社会連携授業inいばら

岡山大学L-caféは、学生同士が自由に交流して,多言語・多文化への理解を深めることができる主体的な学びの場で、イベントを通じて留学生と交流したり、授業の合間に留学生と一緒にご飯を食べながらフリートークをしたりと、毎日が多文化交流の場として人気の「居場所」です。

地域総合研究センターでは、ここL-caféと連携して留学生が日本人学生と共に「日本の伝統文化を学ぶ」ことを目的とした実践型社会連携教育を実施しています。主担当教員は岡山大学全学教育・学生支援機構の藤本真澄准教授(L-café担当)、そして井原市とのコーディネートなど社会連携サポートを地域総合研究センターから小職が担当しています。

今年度の授業は、一泊二日の日程で、井原市をメインフィールドとした実践型授業を計画していましたが、新型コロナウイルス拡大により、現地へ出かけるプログラムを断念せざるを得ませんでした。
事前授業では、井原市建設経済部観光交流課の藤岡健二課長補佐から井原市の現状や課題について説明を受け、さらに地方創生に向けた施策と取組み状況についてレクチャーを受けました。そして藤本准教授から当日のスケジュール、学びのポイント、学生たちに課せられる学びのテーマ、新型コロナ対策を含む活動の諸注意を受けました。そして三村教授から岡山大学のSDGs への取組みと地域活動の実際例を紹介しました。

こうして事前学習を終えた学生たちは、5月22日、一両で走るノスタルジック鉄道として鉄道ファンに人気の「井原鉄道」に乗車、井原市では、井原市長の出迎えを受け、井原市の担当者のご案内により、授業の主目的である「備中神楽」を鎌倉から室町時代にかけての吉備高原一帯にみられたむらのようすを、絵巻物や発掘資料をもとに、時代考証により再現した「中世夢が原」にある「吉備高原神楽民俗伝承館」にて鑑賞する予定でした。

さて、事前学習で井原市から『「かぐら」の語源は「神座」(かみくら)から神様の依り所を示し、「踊る事で神を招く事」が神楽の原点になったと言われ、また鈴を使うことによって神様に居場所も教え、神社のお参りでじゃらじゃらと鈴を振る事やお寺で鐘を鳴らすのも同じ意味しており、昔の人々は金物が一番違う世界に聴こえる音と考え、こうして神楽は民間にもどんどん溶け込み現在の形になっていったと言われています。そして、備中地方を代表する民俗芸能として、全国的にもその名を知られている『備中神楽』は、地域の生活にとけこみ、老若男女を問わず親しまれ、盛んに演じられてきました。ところが近年、熟練した神楽太夫の高齢化とともに、華やかさを競うイベント的な面が脚光を浴び、神楽に伴うしきたりや、伝統芸能としての価値が見失われる傾向にあります。そこで、美星町では、祖先から伝えられてきた神楽をできるだけ本来の姿に近い形で後世に伝えてゆくため、平成2年7月に中世夢が原の入口に『吉備高原神楽民俗伝承館』を整備しました。ここには、昭和初期の神楽面、陣羽織などの衣装をはじめ本格的な神殿(こうどの)を展示しており、備中地方の熟練した太夫で組織された「備中神楽五十鈴会」や次代を担う若手太夫による「民俗文化財備中神楽伝承研究会」の活動拠点として使われています。』であると学びました。

実際に神楽を見学できなかったことは、誠に残念でした。

そして、授業では、井原の特産品であるデニムの生地を織る、大正6年(1917)年に備中小倉織の機屋として創業し、メイドイン・ジャパンの高付加価値デニムを世界に発信している「日本綿布」の工場や文化元年創業以来200年間、岡山県産の米を原料として使用し、寒造り、手造りの備中の地酒として知られる「山成酒造」にて銘酒「蘭の誉」を製造する酒蔵を見学する予定でした。さらに神社仏閣巡りでは、奈良時代の天平11年(739年)、行基菩薩によって開創された古刹真言宗「成福寺」にて密教や曼荼羅について住職からお話を拝聴、また、井原市「美星町」の由来となった流星落下伝説の「星尾神社」へ参拝も企画されていました。

さらに、今回の授業のもう一つの眼目である、井原市のSDGsによる地方創生活動を体験するために、夜は、「美星天文台」で、星をテーマとした地域おこしを学ぶ時間を持ちながら、観望会へ参加、台長さん自らが操作する101cm望遠鏡で、月、木星、土星や火星、ベガやベテルギウスなどの一等星、星団、星雲、銀河などから、この季節、天候に適した天体へ順次、望遠鏡を向けてお話をお聞きする予定でした。

宿泊は天文台近くのペンションコメット(国の地方創生予算でリニューアルした人気のスポットです)でコロナ感染対策をしながら時間を過ごし、翌日5月23日は、朝から星の郷青空市を見学、オープンしていれば、特産ジェラートや美星バーガーを楽しむ企画も考えていました。
そして井原市での実践活動の結びは大江地区での「にんにくの収穫体験」です。この企画は、岡山県が進める「おかやま元気集落」事業として位置付けられ、その活動への学生たちの参加です。その事業の目的は「中山間地域は、農林水産物の安定供給や水資源のかん養、憩いと安らぎの場の提供など、公益的な機能を有しています。一方で、過疎化、高齢化の急速な進行により、耕作放棄地の増加や森林の荒廃、農林水産業の生産活動が低下するなど、さまざまな課題もあります。こうした状況を踏まえ、岡山県では、小規模高齢化集落など、単独では集落機能の維持が困難な集落が含まれる地域において、小学校区、大字等の広域的な地域運営により、集落機能の維持・強化に取り組む地域を市町村からの推薦により「おかやま元気!集落」として登録し、中山間地域活性化の原動力と位置付け、市町村と連携を図りながらその取組を総合的に支援しています。」とあります。大江地区では、にんにくを特産品にすべく、2020年6月に特売所をオープン、さらに加工品として黒にんにくやニンニクパウダーを商品化するなど、さらに井原市では、ふるさと納税の返礼品にも採用しています。
授業では、こうした中山間地域が直面する課題の解決に向けて地域が実際に取組む活動への参加を通じて、学生たちは、地方創生活動の現場を体験することにより、たゆまぬ努力を重ねる地域の皆さんの姿を学び、その解決策を考えることを学びの目的にしています。

そして、再び井原鉄道に乗車して、隣の町の矢掛町まで戻り、2021年3月28日にオープンしたばかりの矢掛町道の駅「山陽道やかげ宿」に立ち寄り帰校の予定でした。


さて、こうした実践型授業の中止を受けて、その代替授業をオンラインで実施したしました。教員2名は大学から、そして井原市は担当職員が市へ出勤、さらに井原市大舌勲市長は自宅から参加いただき、学生たちも自宅からの参加で実施いたしました。

代替授業では、藤本准教授から学生に与えられる課題の説明があり、同准教授の進行により5月22日13時の定刻通りオンライン(ZOOM)で授業が開始されました。

まず、井原市建設経済部観光交流課の藤岡健二課長補佐の解説により、井原市の映像交えながら、見学予定であったポイントを写真や資料を使い講義形式で実施いたしました。そして地域の魅力紹介にあわせて地方創生の課題について言及頂きました。そして授業の後段では、事前に井原市のチョイスで取り寄せた特産品や土産物を開封して、わいわいガヤガヤ味わいながら、学生たちが評価します。留学生の率直な意見や感想に、都度、大舌市長がコメントするなど、意見交換が続きました。

そしてコロナ収束を期して、必ず井原市への訪問を実施することを誓い合いました。

最期に、藤本准教授がレポートのテーマと提出期日について再度確認して、大舌市長や井原市の皆さんにお礼を申し上げて、16:30、オンライン授業は終了しました。

笑顔で心に残るL-café実践型社会連携授業の報告です。

井原市の皆さんに感謝です。