12月12日、社会で活躍できる学生を、いかに育てることができるかの教育プログラムを考えるため、カナダのブリティッシュ・コロンビア(BC)州から伊藤公久、K.Ito&Associates代表を講師にお招きし、「カナダで学んだ教育方針」との演題でご講演いただきました。
伊藤様は木造建築構造設計、省エネルギー建築テクノロジーコンサルタントであり、International Eco-House 社も設立されインドアエアクオリティーの技術コンサルタントともされています。また、林学の研究家であり、ブリティッシュ・コロンビア大学林産学部アドバイザー協議会委員、カナダ政府住宅金融公社政府認定国際建築技術指導員、カナダ天然資源省Super E 省エネ住宅技術委員など数々の公職を努められています。
カナダは面積は日本の24倍、人口3400万人、10の州と3の準州からなり、世界から毎年20万人の移民を受け入れ、言語も英語とフランス語が中心ながら、世界からの移民で多くの言語が使われているため英語教育に予算を積極的に使っている、日本とはいろいろな面で事情や性格の異なる国です。
日本との関係では、日本人は4世といわれる世代が育ち、最近は東日本大震災の関係で、電力供給のための資源として石炭や液化ガスの日本向け輸出が急速に伸びているそうです。環境面では森林国としてのサステナブルな政策として100年単位で森林の伐採をする仕組みが完成しており、永久に資源が枯渇しない保全手法が確立していて、さらに国内木材の特性を最大限に活かせるよう住宅断熱の研究が国レベルで進み、また電力会社やガス会社がLEDを個人世帯に無償配布するなど、エネルギー節約に関するエコ施策も日本とは異なる発想が、随所になされているとの講話です。
教育の基本理念は社会が個人を作るのではなく、個人が社会を作るとした個人主義とそれを支える効率的な発想が根底にあり、個人から社会へ、社会から国へとの考え方に裏付けられた社会責任とナショナリズムを重要視するのが特徴だそうです。そこでは、個人の価値を高めるために固定観念や既成概念にとらわれない、社会変革に自分自身の能力を自由に試すことで選択力を育てることにより、より良い社会を気づくための自由な発想が涵養されるとした自由主義的合理主義が広く定着しているとのことです。
大学教育はかなり自由に入学できるが、進級、卒業のためには相当な自己努力が求められ、毎年、脱落者が多数出るために、うまく卒業まで到達した学生たちの結束力は強く、社会に出たあとも友情や人脈は引き継がれるそうです。
また、30歳を過ぎた世代が数多く大学で学んでおり、そこでは政府が授業料を負担することにより、生涯にわたり学び続けられるシステムを保障している点も、日本とは大きくスタイルが異なります。ただし、そこでも学位を取得するには、自らが相当な努力をしなければならず、社会の方が厳しいのだから、大学生が徹底的に学ぶことは当然であるとの考えが前提となっています。
余談ながらとして、ブリティッシュ・コロンビア大学には見事な日本庭園があるそうで、これはビクトリア市で永眠された新渡戸稲造博士の偉業を讃え、彼を追悼するために作られたと紹介いただきました。
さて、今回の講演の肝は、Co-opプログラムと呼ばれる大学で得た知識を大学生の時代から延べ4か月にわたり社会(企業)へ出て実践し、技量と経験を身に付け、そのうえで大学へ帰り知識の深化に務めるという大学と社会のコラボレーションによる実践型教育プログラムの紹介です。
わが国では短期のインターンシップ制度はありますが、それは単に2週間程度企業に大学生を派遣するといった内容で、派遣先の企業に内容はおまかせするのが通常です。カナダの、Co-opプログラムでは、大学と受け入れ側をつなぐ役割を果たすコーディネーターがいて、双方向でプログラミングを行い派遣時はフルタイムで勤務、また受け入れ先も地元企業はもとより世界の企業に広がっているという点で、日本の大学の語学教育と大学での座学中心となっているグローバル教育の狭さを痛感する結果となりました。こうしたプログラムに参加して、一定の成果をあげた学生は、就職時の門戸や雇用条件も通常の学生より格段に優遇される実態も説明いただきました。岡山大学の目指すべき学都構想に大きな影響を与えていただいた講話でした。
▲ 左奥から二人目が伊藤公久様
なお、前日11日に岡山市内にて林業や木工業、森林保全、建築分野を中心に、自治体や経済界など伊藤先生に関連する職者の方々が荒木理事の呼びかけによりお集まりいただき、意見交換会をいたしました。
幹事を務めさせていただきましたが、このご縁を作っていただいたのは、小職の友人で、昔、カナダBC州で日本政府代表をされていた芝綜合法律事務所の舛井一仁弁護士です。舛井先生に感謝です。
カナダの実践型大学教育
[関連リンク]