11月28日(月)は、朝からボルドー大学を訪問いたしました。学生数6万人を誇るフランス有数の名門校です。朝から大勢の学生たちが授業を受け、また、図書館で勉強する姿が印象的でした。
私は、ここで失礼して、私の専門の都市公共交通の現地調査を開始いたしました。ボルドー市の都市交通は、トラム、バス、船の3種がメインで、歩行者と自転車を優先した交通体系になっています。また、電動スケーターが数多く普及しています。コミュニティサイクルと同じく貸し出しを行っています。今朝はトラムのB線でボルドー大学へ参りましたが、学生数6万人を誇るキャンパスは広大で、ひとつのまちを形成していると言って過言ではなく、トラムの駅も大学利用者を対象に3つを数えると感じました。ボルドー大学から、再びB線に乗車して終点のPESSAC CENTRE駅まで参りました。途中にワインのためのブドウ畑をみることができました。さらに、このPESSAC CENTRE駅からバスを乗り継げば、二駅ほどで有名なワインのシャトーがある「シャトー・ハープ・クレモン」を訪れることができるとお聞きしました。観光が目的ではありませんので見学はいたしませんでした。
そして再びB線に乗り、逆方向へ走り、ガロンヌ川沿いに、一方の終点であるCLAVEAU駅まで参りました。CLAVEAU駅のもう一つ先がガロンヌ川の支流の橋を越えた終点のBERGES DE LA GARONN駅です。そこにはボルドーの文化・文明を見学できる施設であるシテ・デュ・ヴァンがあり、見学をしたかったのですが、なんとトラムの線路が橋で通行止めになっていました。この橋は可動橋になっていて、20センチほど橋が持ち上がっていてトラムはもちろん、クルマも通行することができませんでした。あきらめて川沿いを徒歩で折り返して、ガロンヌ川の本流に架かる巨大なアキテーヌ橋を歩いて往復いたしました。このアキテーヌ橋は中央に4本の支柱を持ち、橋の中央部分が昇降式の可動橋となっています。さすがに橋が持ち上がった姿を見ることはできませんでしたが、改めてボルドーが世界に冠たる港町であり、現在も水上交通が主要なモビリティ手段となっていることを雄弁に物語っていました。
そして、「サン・タンドレ大聖堂」と「ボルドー市役所」があるHOTEL DE VILLE駅まで戻り、そこでA線に乗り換えて、ボルドー最古の橋であるピエール橋を渡り、STALINGRAD駅で下車、大きなライオン像の前から川沿いを船着き場があるPORT DE BOURGOGNEまで徒歩で参り乗船いたし、元の対岸へ引き返す体験乗車をいたしました。自転車を積み込んでいる人や家族連れ、そして観光客など、結構な人たちが利用していました。海と川を大切にしながら歴史を刻んできたボルドーの片鱗を垣間見る思いでした。
ところで、交通システムについては、ボルドー市の交通局では、相談窓口が設定されていて、4名体制で利用者からの相談にきめ細かく対応しています。また、トラムや列車、バスについては、路線ごとにマップが整然と分類されて整備されています。日本の多くの地方都市では、公共交通事業者が複数になりますと、鉄路は別としても、バス路線やそのほかの移動サービスやインフラについては、経営体が別々のために利用者が、最善の移動手段を考える際に、困惑するケースが多く見られます。フランスの都市では、その自治体が一括管理や運営を行い、さらにまちの催事にあわせた観光事業では観光協会や渋滞や事故対応では警察連携など包括的な公共交通サービスを保障することが、すべての施策の大原則となっていると改めて感じました。
市民に課題を聞きますと、中心市街地周辺では、道路工事があちらこちらで行われている点とトラムでは景観的にはパンタグラフの無い、動力の電力確保を地中に埋設してきれいに見せているものの、例えば雪が降るなどすると、たびたび安定的な電力共有に故障が生じて、安定的な運行ができないことが多いことを教えてくれました。ただし、ボルドーのトラムは、全線が一カ所の駅で結ばれているために、初めて訪れた外国人も迷わずに乗り換えができる点は、卓越的な利用者利便を考慮したシステムになっているとの印象です。またそれを補完するようにバス路線が張り巡らされています。岡山大学の留学生に聞きましても、大学のキャンパス内にもトラムの駅が複数設置されているし、郊外の大型スーパーと駅、中心市街へのショッピングや飲食の際の駅、遠出をする際のボルドー駅、その他の美術館やミュージアム、スポーツ施設へも駅があるまちの作りであり、更にボルドー特産のワインのシャトーなどもトラムの駅からバスが接続しているために移動に関する不便さを感じることが無いため「自転車さえも必要ありません」との答えが返ってきました。
もちろん、コミュニティサイクルのポートも市内の随所に整備され、前回までの調査と大きく変化した点は、キックボードが驚くべき速さで普及、浸透していて、列車やトラムにも積み込む姿が日常となっていることでした。日本で位置づけがあやふやながら導入が模索されてきた、パーソナルモビリティとして、つまり、自転車とバスやトラムを結ぶ、中間点にキックボードが主役としてデビューして、人々の移動を間断なく支える体制が整ったと言えます。もちろん急ぎの時や大きな荷物を抱えるときには、タクシーも公共交通としてバス専用道を自転車と共に運行できるルールとなっていますし、道路空間の再配分とモビリティ手段の多様性、さらにモビリティ間のシームレス化が相まって、理想の公共交通システムを形成しています。
さらに、トラムの都市圏全体への延伸により、多くの人々が流入してまちに賑わいを創生するという、公共交通の真の狙いも達成しています。生活弱者を生まない、低所得層住宅の近くにはトラム駅があり、郊外にはパークアンドライドが憎いまでに必ず整備されています。また港町の伝統を活かして、公共交通の乗車券が使え船で行き来ができます。本数も30分に1本と十分な便数だと感じました。さらに広域的な移動では、パリとボルドーがTGVの開通当時は3時間半かかっていたのが、現在では2時間半で行けるようになりました。このように長距離鉄道網のスピードアップと利用率のアップが、人の移動を量、質共に加速化させ、ビジネスや観光など、様々なシーンで経済波及効果に大きなプラスの影響をもたらしています。
ヒアリングによれば、パリとボルドー間が最短2時間10分で結ばれたことにより、パリジャンが南の港町である風光明媚なボルドーに家を買うブームが起こり、2拠点で生活する富裕層が増え、地価や賃貸の家賃が急上昇したそうです。ただし、ボルドーの港町としての地域性もあり、高級志向が強いパリからの新住民に対して、地域のコミュニティが、やや距離を置いたために、このブームは一段落したそうです。一方で、地価の価格の下方硬直性により、地価や賃貸の家賃は高止まりのままだそうです。
いずれにせよ、フランスは主要な自治体が競うように、こうした公共交通の利便性をあげる施策と暮らしの安心安全施策を進めたため、移民政策も功を奏して、外からの流入に対して一定程度のハードルは厳しく課すものの、人流の増加とそれを支える公共交通システムの好循環により、人口増加が進んでいます。
夕方から、再びボルドー大学へとって返しました。ボルドーモンテーニュ大学の昇地崇明教授の日本語授業にお招きいただきました。現代は「先行きが不透明で、将来の予測が困難な状態 」であるVUCAの時代と言われています。VUCA とは、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字をとった現代用語のひとつです。昇地崇明教授は、認知心理学を専門領域とした研究者であり、不確定・不安定な生きづらい社会を乗り越えていくために求められるコミュニケーションの力について高い知見を持つ方です。
岩淵泰副センター長は、約10年前にボルドー大学で教鞭をとった経験を持たれていて、昇地先生とはじっこんの仲です。岩淵先生が、岡山とボルドーのまちを比較しながら、まちづくりを研究する魅力について学生たちに語りかけました。日本語を学ぶ学生たちですので、熱心な意見交換がなされました。岩淵先生の講義の後も、学生たちは教室で雑談が続きました。私も会話の仲間に入り、日本のなかでの岡山の位置づけや魅力について紹介しました。結構、具体的な質問も頂きましたので、なるべく丁寧にお応えしました。
授業終了後、昇地先生と夕食をご一緒させて頂きました。ボルドー大学と日本の大学との交流協定の現状と今後の方向性について、貴重なお考えをお聞かせ頂きました。