船は予定通り鴛泊(おしどまり)港へ接岸です。港では礼文と同じく周遊バスが待っていてくれ、定刻どおり出発です。礼文島は断崖が切り立っている箇所が続くため、島を一周する道がありません。一方で、ここ利尻島は、火山の噴火で出来た島のため、島全体が火山岩で出来ているためか、海岸線沿いに立派な道路が島内を一周できるように造られています。したがって折り返すことなく、順番に景勝地を見て廻りました。まず、最初は利尻島最大の湖沼のオタトマリ沼です。美しく広がる湖の開放的な視界ですが、沼の奥に見えるはずの利尻山が展望できなかったのは残念です。とは申せ、気持ちの落ちつく幻想的な空間に満足しました。案内看板によれば、沼畔には遊歩道もあるようで、いつの日か、ゆっくりと時間をかけて楽しみたいとの思いが残りました。売店にあった昔の利尻港ニシン漁の写真で当時の隆盛を偲びました。
次のスポットは、仙法志御崎(せんぽうしみさき)公園です。海は少々荒れ気味ですが、利尻島最南端の岬です。利尻山が噴火し、その溶岩が固まりできた奇岩が数多く並びます。ここには生簀があり、ごまアザラシが、一頭飼育されています。人には大変慣れていて、餌をくれると思ってか近寄ってきます。ガイドさんの案内どおり、その景色は、まるで東映映画の始めのシーン、岩に打ち寄せる荒波が再現されたようです。奇岩景勝とでも申しましょうか、その間を風に飛ばされぬようカモメが飛び交います。生きたウニが訪れた人に提供されています。
いつの間にか、日常の悩み事が如何に些細なものか、思い浮かべ、小さく笑いました。強風の中で、ひとつ大きく息を吸い込みました。
最後は、沓形(くつがた)岬です。ここも強風に混じって、横殴りの雨に見舞われました。浜茄子の葉が風に耐えています。売店で名物「愛す利尻山」(雲丹ソフトクリーム)を頂きました。アイスに雲丹の粒がトッピングされています。ステックも根昆布でありまして、最後は食べてください、と店主からアドバイスがありました。地の特産品を使っての商品開発に対する探究心の高さに脱帽しました。
さて、鴛泊港に着いた頃には、日が暮れかかっており、ホテルからの迎えのマイクロバスに乗り込み宿へ入りました。ここ「北国グランドホテル」も天然温泉であり、滑らかなお湯に浸かって、まずは日中に濡れて冷えた身体を温めました。北の地らしく、露天風呂の回りは紫陽花の花で満開でした。
風呂からあがって夕飯です。趣向を凝らした品々が次々と運ばれてきます。地のもので彩られた先付け、刺身、煮物、天ぷら、毛がに、等々、満腹です。そして、宿のお楽しみは、天体観測です。心配された天候も雨が上がり、雲も切れました。希望者は8時30分にロビー集合、ペンライトを渡され、マイクロバスに乗り込み出発です。10分ほど走った公園らしきところで下車して、ペンライトを頼りに真っ暗闇のなかを2~3分歩きます。運転手さんが実は支配人さん、天体には深い造詣をお持ちで、レーザーポインターをまずは北極星に向け、それから北斗七星と小熊座、そしてベガを織姫星、アルタイルを彦星と呼ぶ天の川、さらにデネブを加えて夏の大三角形、そしてスバル、カペラ、カシオペア、と順番に解説をしてくださいます。どの星も肉眼で綺麗に見えます。
先ほどの奇岩景勝もさることながら、無限に広がる天を仰ぎながら、ビッグバンの話から、この満天の星たちの光が地球に届くのは、何万光年も前に放たれた輝きが、いま、こうして地球まで降り注いでいることを改めて聞かされると、本当に、いま自分がここに生きていることの奇跡を讃えると同時に、毎日、仕事で思い悩む雑念だらけの自分のちっぽけさに気づかされます。首が痛くなるまで天を見上げ続けました。寝床についても、夢の中で、いつまでも満天の星が輝き続けておりました。北の最果ての旅に心が解き放たれた心持でありました。