シルバーウイークは北海道を旅しました。
9月19日、午前中の便で岡山空港から羽田空港、そこで家族と合流です。
稚内行きのフライトまで時間がありましたので、羽田空港内にある美術館で、剣豪「宮本武蔵」の水墨画展を拝観しました。布袋や達磨など水墨画はもちろん、「五輪の書」、彫刻など武蔵の多彩な才能に感嘆です。ちょっとした待ち時間に、気持ちを豊かにさせてくれる空港内美術館、入場無料とは粋です。
さて、羽田発、稚内行きの直行便で初の稚内です。稚内空港では「サハリン地ビール」の看板が眼を引き、ロシアのお姉さんの出迎えに最果ての地を感じました。空港からは乗り合いバスでJR南稚内駅傍にあるホテルの近くの停留所で下車、まずはチェックインです。一服してから、タクシーで稚内駅へ向かいました。日本最北端の駅は、道の駅も兼ねた造りです。
稚内の天候は曇り。どんよりとした天候ではありますが、雨はなく、まずは駅なかを見て廻りました。本数が少ない宗谷本線、日本最北端の終着駅には、丁度、特急が入線しており、記念撮影をいたしました。そして構内のショップを見て廻りました。流石に北海道は、ご当地の土産物が多く陳列されています。ここはコーヒーショップやレストラン、そして映画館も併設されていて、まさに駅が街の中心核をなしています。その隣に「北市場」があり、海産物や野菜、地元メロンなどが並んでいます。2階の「夢広場」食堂は休憩時間でした。
駅のロータリーには、優先停留所が設置されていて、高齢化が進むなかでの配慮に嬉しくなりました。昔は岸壁まで続いていたであろう線路を、うまく記念撮影のスポットにしてあるしつらえにも、観光地ならではの心憎い演出を感じました。
さて、駅から数分にある稚内港北防波堤ドームに参りました。昭和6年着工、11年完成のドーム建築で、稚内とサハリンを結ぶ港として終戦まで使われ、今も補修されながら防波堤の役割を果たしています。昨日まで岡山で開催された土木学会全国大会では防災をテーマに報告しましたので、わが国の高い土木技術を偲ぶ歴史的な遺産に触れることができ感慨もひとしおです。
次に、街を見下ろせる小高い丘にある北門神社へ参りました。風雪に耐えながら地元の皆さんの信仰を支え、海上での船の安全祈願がなされている北の地ならではの佇まいに、しばし境内に足を休めて眼下に広がるオホーツクの海を眺めました。
それから、商店街があるエリアのある駅方面へ戻りながら街並みを散策いたしました。にしん漁で栄えたであろう頃の活気ある昔を想像しながら、閉じたボーリング場や商店がやたら目に付く「風の街」を歩きました。運よく、「雲丹丼」の看板を出したお店「花楽(からく)」を発見、夕食をとることにいたしました。お勧めの魚貝を尋ねると、「赤ホタテ」ありますよ、と答えてくれました。それと地魚の刺身盛り合わせを注文して、お酒は地元産の「昆布焼酎」をオーダーしました。赤ホタテは、本当にピンク色であり、味も濃厚で美味でありました。貝柱がピンクか普通の白かは、開いてみるまで、わからないそうです。数は限定されるとのこと、味わいながら頂だいしました。昆布焼酎も、とてもすっきりと飲みやすい上品な味わいでした。そしてお待ち兼ねの「雲丹丼」が出て参りました。ご飯は出汁のついた醤油が既にかかっていて、その上を雲丹が覆っています。馬糞雲丹は、既に漁期が終わり、紫雲丹であることを店員さんが告げてくれました。丼には、取れたての新鮮な雲丹以外に何も乗っていません。シンプルそのものです。残念なことに、店内は注文品も含めて写真撮影禁止でありましたが、あまりに見事なのでノーストロボで「雲丹丼」だけ撮らせて頂きました。
さて、北の味覚を満喫して、お店を出た頃には、あたりはすっかり日が暮れて、そのかわり、さっきまで殺風景であった街並みに、居酒屋、すし屋、スナックの灯りが点り、街に活気が溢れます。流石に港町、漁師町、ちょっと嬉しくなりました。宿泊する稚内グランドホテルは、一駅隣の南稚内、汽車の時間まで時間がありましたので、地元のスーパー「食品館あいざわ」をひやかすことにいたしました。入り口にロシア語の看板が出ています。何とかいてあるかは、判読不能です。店内には、近海で揚がった魚貝や野菜をはじめ北海道産の品々が並びます。雲丹の缶詰や高級な利尻昆布の値段にびっくりです。また、いろいろな種類のご当地ラーメンが目を引きました。レジの女性に、こうしたラーメンを「地元の方もよく食べるのですか」と尋ねますと、「あまり食べることはありません。内地の方へのお土産や贈り物に使ったり、東京へ行った子供たちに、地元を思い出してくれるよう時々送ります」と教えてくれました。数種類を土産に買い求めました。
スーパーを後に、駅構内にある北海道名物ご当地コンビニ「Seicoマート」に立ち寄りました。ここは、全国で唯一、大手資本のコンビニを寄せ付けず、道内全域で繁盛しているコンビニです。大手ですと赤字になることが明白なため出店しない地域にも、「Seicoマート」は、あえて出店する施策をとっています。まさに高齢過疎化が進む地域社会を守るために地域の生活拠点を超えて、人々の憩いの拠点として心命を守る役割を果たしている店舗が数多くあるのです。儲けを最優先せず、人々の暮らしを最優先することにより、地域社会と共存共栄を図る、まさに「人を大切にする経営」を地で行く北海道の代表企業です。店内では地元食材を大事にした価格が安い商品やご当地色を前面に打ち出したオリジナル商品が数多く目に付きます。また、店の奥には厨房があり、出来立てのお弁当をはじめとするメニューを提供することに定評があります。北海道の心意気を実感しました。ここではオリジナルのメロンソーダとミルクコーヒーを買いました。
さて、一駅ながら切符を買い求め改札口からホームへ入ります。車両は一両です。俄か鉄男よろしく、何枚も写真を撮りました。やがて出発時刻、列車は夜の闇に向かって、ゆっくりと動き出しました。5分ほどの短い乗車で、隣の無人駅、南稚内駅に到着です。駅構内には、昔を偲ぶ写真が展示されています。また、国鉄時代と現在JRの北海道全線路線図が並べて掲示されています。如何に廃線になった路線が多いことか、一目で比較できます。地方創生とは言いながら、ここまで少子高齢化と過疎化が進むことを放置してきたツケの重さを改めて感じずにはいられませんでした。駅前は、稚内駅周辺に負けず劣らぬほど、食堂、居酒屋、スナックの灯りが広がります。一方で、駅舎からホテルまでの道は、雪国ならでは、凹凸や段差が、はっきりわかるほど舗装が痛んでいる箇所が目に付きます。これも人口減少や産業の衰退による財源難に起因するのではと推察されます。北の最果ての街で、地方創生の難しさを改めて実感いたしました。
宿泊した「稚内グランドホテル」では、鰹やきびなごなど鹿児島料理の案内が目に留まりました。ここまできて、なぜ鹿児島なのかと困惑しましたが、その訳は、最北端の駅がある稚内市と最南端の駅がある枕崎市が姉妹都市であるためで、相互交流により元気を出し合おうというキャンペーンであることを理解しました。また、稚内市の凄さは、現在、全国の都市で開催されている「はしご酒企画」(岡山市では「ハレノミーノ」と命名されていて、1枚が500円で4枚綴り2000円の券を買うと、加盟するお店1軒ごとに500円券1枚でお酒1杯とおつまみ一品が出され、4軒の気に入ったお店を”はしご”するというお店を知ってもらう企画)が、通常は年に数回開催されるところを、ここ南稚内では、月曜から木曜まで毎日開催されているのです。これには驚きを隠せませんでした。飲食店街に活気を取り戻す地方創生企画なのだと理解しました。このように、全国で様々な創意工夫を凝らした企画が展開されています。本日、3回目の嬉しい気持ちになりました。
ホテルの温泉にゆっくりと浸かって、眠りにつきました。