岡山県備中県民局から、学生が井原市にある高原荘を利用して地域づくりを考える事業に参加しませんか、という企画案内がありました。
7月31日、井原市の地方創生を担当していることもあり、三木良一センター長補佐と現地視察に参りました。高原荘のある集落は、高原荘という命名の通り、急峻な深い山中を入った高原にある地区で、完全に限界集落化している地域だと感じました(住所は井原市芳井町上鴫1525)。鴫(しぎ)という地名から、西行法師の「心なき身にもあはれは知られけり鴫立つ沢の秋の夕暮れ」を連想しました。
▲ 高原荘とその周辺地域の景観
井原市の情報によると「高原(たかわら)地域は、高原と日南にまたがる石灰岩台地で、吉備高原特有の自然景観を形成しています。台地東端の八幡神社の社叢には、アベマキ、ケヤキなどの大木が茂り、ツリバナ、クマノミズキなどの高地性植物も見られます。台地西端の妙福寺の裏庭には、カレンフェルトが存在して昔の高原台の面影を残しています。裏庭とそれに続く山林には、樹齢250年のエノキ、300年のシラカシや好石灰岩性植物などが生育しています。また、周辺にはベニモンカラスシジミなど貴重な昆虫や、タワラガイ、オオケマイマイなど陸性巻貝が多数種確認されており、のどかな田園風景と貴重な動植物に恵まれた地域です。」
▲ 妙福寺
また、この妙福寺という日蓮宗の由緒あるお寺(眼下に見下ろす眺望は落差があり絶景です)やJFEスチールの関係会社が製鉄に使う石灰岩を砕石する現場があるため、歴史や地場産業を含め、地元住民の皆さんとの座談会や交流会を実施した後に、魅力発信を立案するという一泊二日のプログラムが予定されているのだろう、と推察しました。確かに、学生たちが限界集落の実情を知る上では、よい学びや体験ができるかも知れませんが、課題解決を図るという観点からは、かなり難易度の高い企画であると感じました。岡山県さんは具体的のどのような展開を想定されているのか問い合わせてみるという結論に達しました。それにしても猛暑で屋外活動では水分補給を欠かせませんでした。
ところで、学生の地域参加について雑感を述べさせていただきます。消滅都市、地方創生が言われる中で、国から自治体に対して創生戦略案の策定・提出が予算付きで呼びかけられています。大学に対しても、県内多くの自治体から協力の依頼が来ています。調査や研究分野でのご協力につては、可能な限り対応させて頂くべく、最善を尽くしているところです。また、学生の参加についてもご依頼いただくケースがあります。こうした機会に、学生たちに地域社会の実情を現場で学んでもらうことは、とても大切な事であると考えています。参加や派遣のご依頼を受けた際に、教員の立場からは、その目的やねらいが何か、また、何を学生たちは学びとる事が出来るかを考えます。
次に、例えば、地域の皆さんとのワークショップを想定しますと、直面している地域課題の解決策を見出すことが相当に困難な場合、単なる無責任なアイデア出しで終わってしまう危険性を孕むケースを心配します。つまり、そうなると、地域の皆さんに逆に失望感や挫折感を与えてしまう結果となるためです。これまでも、学生たちが岡山県内の地域へ関わりを持たせていただいて、喜んでいただいた例もあれば、逆にご迷惑をおかけした例もたくさんあります(指導不足であると反省しています)。また、無責任なアイデア出しで終わった場合は、学生にとっても真の学びは得られません。
そして、最も重要視することが、そこへ行く際の怪我などのリスクです。主催者から、「旅費宿泊費は支給しますが、現地へは自己責任で来てください」(おまけにアクセス方法のきちんとした説明が無い)といった条件が示されますと、そこが例えば、公共交通がまったく無く、徒歩は論外、自転車では危険すぎる(道が険しすぎる)、クルマでも夜は真っ暗で街灯は無く地元民しか通らないような、都市と比べると誠に厳しい環境に置かれている集落で、こうした企画をするならば、大学としては、教員が事前調査をして安全が確保できるか確認のうえで、自らクルマを出して、学生と参加するしか道はありません。そうした困難な条件を学生自らが解決することも学びかもしれませんが、その場合は主催者が、ある程度の答えを用意していなければならないと考えます。つまり、企画自体に疑問を呈してしまいます。少なくとも、「最寄り駅に何時何分集合、そこからは用意したバスで・・・」という企画にして頂きたいと思いますし、参加希望者へは、当該自治体や集落に関する基礎資料や課題に関する事前資料を提供するなど事前学習の提示は頂きたいと思います。「地方創生予算がついたから、何かする」というような事では無いと思いますが、自治体関係者の方、よろしくご指導をお願い申し上げます。
さて、現地視察を終えて、井原市芳井町共和にある「三村珈琲店」にて上等のコーヒーでくつろぎました。ここは、昔の郵便局を喫茶店に改装しておられます。店内は撮影禁止でした。確かに独特の雰囲気があります。また、コーヒーは丁寧に煎れてくれるだけあって、絶品です。同姓故に申すわけではありませんが、岡山へ着任したなかで、岡山市や倉敷市など、コーヒーの美味しいお店を何軒か訪れましたが、ここの1杯は星3つです。何人かのコーヒーファンの方から勧められていましたので、今回、念願がかないました。
そして午後からは、井原市地域創生課へ顔を出しました。現在、井原市では「地域おこし協力隊」の募集を開始しています。地方創生に取り組む自治体では、地域社会の新たな担い手として、新しい視点や発想力で、埋もれている資源の発見や見直し、地域の潜在能力を引き出すことで地域の活性化を図るべく、「地域おこし協力隊」の募集を進めています。岡山県下においても、制度創設以来、既に多くの自治体で協力隊の皆さんが活躍しています。私が顧問をしている学生サークルは、瀬戸内市において、協力隊の方のご指導で、空き家の再生活動を進めています。また、新見市では、森林ボランティア活動に参加した経験をきっかけに、法学部出身の卒業生が、県外大手企業の内定を断って協力隊に入り、地域のために活動しています。
井原市でも、今回はじめて3名の募集を始めました。東京にある岡山県のアンテナショップ「とっとり・おかやま新橋館」や大阪会場で開催した地方創生戦略本部主催の説明会への出足は好調で、多くの方にご参加頂きました。
委嘱期間は1年で、活動の姿勢や成果を勘案のうえで最長3年まで更新が可能です。報酬等は年間409万2千円です。市との直接の雇用関係はありませんが、活動に支障の無い範囲で就業等が可能ですし、住居等も市が斡旋するなど、委託期間終了後も将来にわたって就業して頂く事を期待しています。(お問い合わせは、井原市建設経済部地域創生課:0866-62-8850、メールは sousei@city.ibara.okayama.jp です)
こうした活動を、井原市名誉市民である平櫛田中(ひらぐしでんちゅう)先生の代表作「鏡獅子」をモデルにした井原市マスコット キャラクター「でんちゅうくん」が、井原市営業部長として支えています。この日は、「でんちゅうくん」の熱烈なファンが広島県呉市から訪れ、田中美術館を拝観された際に、多くの「でんちゅうくん」グッズをお買い上げ頂きました。そのお二人を地域創生課へお招きして職員一同でお迎えしました。営業部長「でんちゅうくん」の活躍に井原市民が大きな期待を寄せています。皆さん、「地域おこし協力隊」の募集共々「でんちゅうくん」よろしくお願い申し上げます。
井原市での打ち合わせを済ませて、考えてみるとお昼はコーヒーだけで、昼食をとっていないことに気がつき、まず、井原市美星町西水砂にある、美星産直プラザ「星の郷青空市」へ立ち寄りました。市場には地元の新鮮野菜に並んで名産の「白桃」が数多く売られています。店内をひやかしてから、名物美星豚を使った「美星バーガー」を食しました。ぺろりとたいらげました。野菜と豚、そして玉葱を炒めたつなぎが絶妙で、癖になるうまさです。なんとか販路を拡大したいものです。
最後に、井原市芳井町種にある「明治ごんぼう村市場」(ごんぼう=牛蒡です)を視察しました。井原市の紹介では「「明治ごんぼう」の産地として知られる明治地区は、井原市芳井町の北東部、標高400メートルの高原地帯にあります。明治地区の土壌は粒子の細かい赤土で、手で握るとぎゅっと固まるような粘土質が特徴です。そのため「明治ごんぼう」は味と香りがよく、また肉質が緻密なことから歯切れも良いため、市内外を問わず多くのお客様にご好評いただいております。少ししなびてきたら水につけると復活するぐらい日持ちも良く、ご家庭での料理に使いやすい食材です。また、ゴボウ以外にも明治の高原で採れた新鮮な野菜や加工食品も販売しております。一年を通じて、その時期ならではの旬の野菜をお安くお買い求めいただけるほか、「ゆずみそ」「手作りこんにゃく」などの期間限定商品もおすすめです。」とあります。
市場では、腰の曲がったおばあちゃんが一人で店番をされていました。そこへ「今日は格別に暑いのう、ようやく持って来れたわ」と手押し車に収穫されたばかりの青々とした枝豆を積んだおばあちゃんが来られました。やっぱり腰が曲がっておられました。今年のごんぼうの出来具合や世間話をさせて頂きました。「いつまでもお元気で」と申し上げましたら、「あなたもね」と笑顔を返して下さいました。朝取りのキュウリ6本、ナス4本、ズッキーニ1本が各100円、フルーティートマトと枝豆が各120円、ごんぼうかりんとう350円、ごんぼう酢漬け300円を購入しました。
官舎へ帰り、さっそく、サラダや炒め物にして頂きました。井原市の魅力を満喫できた収穫の多い一日でした。