「お金の地産地消」を考える勉強会in倉敷町屋トラスト

「お金の地産地消」を考える勉強会in倉敷町屋トラスト
5月22日、公益財団法人みんなでつくる財団おかやまの主催の勉強会に参加させていただきました。現在、人口減少や少子高齢化と行政の財政難が進むなかで、地域の課題を解決するためには、地域金融機関が如何にファイナンシャルサービスを通じて地域創生に対応するかがポイントになっています。前任の愛知県豊田市で共に活動をしていた、愛知県を中心に活動するNPOバンクであるコミュニティ・ユース・バンクmomoの木村真樹代表が来岡され、倉敷市東町にある倉敷町屋トラストへお見えになり「お金の地産地消」をテーマに話されました。momo は、2014年12月に『お金の地産地消白書2014』を発行されています。このたびは、この白書についてお話しいただき、集まった皆さんでグループに分かれてディスカッションを行いました。
「お金の地産地消」を考える勉強会in倉敷町屋トラスト
この分野は、小職の専門分野のひとつでありますので、少し解説をいたします。まず、地域コミュニティ活性化の担い手として、NPO法人の活動に期待が寄せられて久しいわけです。ところが、その現状は、財政面をはじめ、運営基盤は脆弱な団体がほとんどであり、行政からの補助金や支援を拠り所としながら、自立できないケースが多いのが現実です。とりわけ、担保とすべき資産がないため、一般的に金融機関の融資姿勢は、最近では拡大しつつあるものの、全体としては未だ消極的です。こうした社会的な背景のなかにあって、NPO法人やワーカーズコレクティブ(労働者生産協同組合)等の非営利団体の活動をファイナンス面からサポートすべく、全国にNPOバンクが設立されています。その経営実態は、貸金業法を根拠法として、広く環境問題や少子高齢社会が抱える福祉・介護問題、過疎化対策などに関心を持つ一般市民から寄付や出資金を集め、NPO法人やワーカーズコレクティブが行う事業に融資を行い、地域のなかで資金を出資者に見える形で循環させようとしています。
さて、平成10年12月1日に施行された「特定非営利活動促進法」により、全国にNPO法人が設立され、その数は、平成27年2月末日現在で、都道府県認可のNPO法人49,970団体、内閣府認可のNPO法人789団体となっています。また、その活動は、同法第2条別表に掲げられた、保健・医療又は福祉の増進を図る活動、社会教育の推進を図る活動、まちづくりの推進を図る活動、学術、文化、芸術又はスポーツの振興を図る活動、環境の保全を図る活動、など多岐にわたっています。このように法律が施行されて20年近くが経過した今日、NPO法人の増加により、その活動を支えるための資金需要は拡大するなか、寄付や行政の助成による資金調達には限界があります。とりわけ、行政の委託事業による介護事業や環境保全事業をはじめとする、コミュニティビジネスの増加に伴い、これらの事業に取り組むNPO法人は設備資金やつなぎ資金を必要とするようになるなか、民間金融機関の法人向け融資の審査基準では、担保不足などの点で融資条件を満たすことができないケースが多く、資金調達が思うに任せない点が指摘されています。さらに、地域や目的を明確にした資金循環に関心を持つ市民が増えてきたという社会的な背景があります。すなわち、自分たちのお金が、身近な暮らしや困った人達を救済するために生かされるように地域で循環することを思考する市民が増えるという社会的な要請に応えるという理由により、NPOバンクが設立されることとなったのです。
日本におけるNPOバンクの始まりは、1994年に設立された未来バンク事業組合です。未来バンク事業組合は、(1)環境破壊や公共事業の資金源に郵便貯金が財政投融資という形で使われている、(2)戦争などの資金源となっているアメリカ国債の40%を日本の政府や銀行が購入している、という問題意識から、「環境破壊をやめたい」「戦争に加担したくない」といった市民の想いの受け皿となることを目的として誕生しました。また、金融機能の東京一極集中や金融機関の担保主義により、市民が望んでいる福祉やまちづくりなどの活動分野、さらにはその担い手となるNPO法人やNGOなどの市民活動に資金が回ってこないという問題を解決するために、全国各地でNPOバンクが誕生しているのです。
アメリカでは、貧困地域や社会的に恵まれない階層の人々に対して、起業資金や住宅取得資金などを融資するコミュニティ開発金融機関(CDFI)が存在し、NPO法人などの市民活動に対する融資も行っています。さらにCDFIを支える仕組みとして、公的なファンドによる資金の投入と、民間の投資を呼び込むための免税制度があります。
それに対して、日本にはコミュニティ投資を促進するための助成制度や優遇税制が存在しません。その結果、低利の融資を行うNPOバンクでは、運営資金を捻出することができず、専従スタッフを置かないところがほとんどであり、消耗品費や事務所家賃を確保することも容易ではありません。
また、NPOバンクの設立理念の底流に流れる思想は、ホームレスの救済を起点として、地域の資金を地域に活用する米国CRA法(Community Reinvestment Act)に通ずる点があります。すなわち、NPOバンクでは、市民から拠出された資金を、市民の視点で、地域に必要とされる非営利事業に融資するという姿勢を重視している点が重要となるのです。したがって、多くのNPOバンクでは、出資配当や利子分配を行わず、融資先も地域貢献活動を支援する非営利団体が中心となっています。一方で、NPOバンクは、バンクと名称が付されていますが、その設立根拠は、貸金業法に依拠しているのです。つまり、預金業務や為替業務を営めるわけでなく、法律上、NPOバンクは貸金業に該当するため、都道府県に登録を行う必要があります。
組織形態については、NPO法人は出資を受け入れることができないため、多くのNPOバンクでは法人格を持たない任意組合(民法667条)の形態をとっています。ただし、北海道NPOバンクのように、出資の受け皿として任意組合を用意し、融資業務の運営はNPO法人が行っているようなケースもあります。こうしてNPOバンクは、専ら融資業務を行い、その性格は低金利でかつ少額融資であり、融資業務の原資となる資金は一般市民からの出資金により支えられているため、その組織運営は厳しくボランティアによる場合が多いのが実情です。しかし、情報公開制度のない任意組合では団体運営の健全性が確保されない恐れもあり、出資者保護の点で問題があります。
こうした動きに呼応してコミュニティ・ユース・バンクmomo(以下、momoという。)は、2005年10月に設立された東海地方初のNPOバンクです。「持続可能な社会=持続可能な小地域の集合体」と定義するならば、そのカギを握るのは、『ユース』(小地域の未来を担う若者)、『バンク』(お金の地産地消)であり、全国のNPOバンクの活動を知り、愛知・岐阜・三重の20~30歳代の若者が中心となって、自分たちの街や将来を自分たちが主体となって築くために、地域のお金を地域で生かす「お金の地産地消」を目指して活動を始めたのです。出資金の募集について、その対象は個人・団体(全国から可)であり、金額は、個人は1口(1万円)~、団体は5口(5万円)~ としています。
運営議決権は、出資口数に応じることとしますが、101口以上を出資しても議決権は100までとした制限を持たせています。また、配当は無く、出資金の払い戻しは、組織の安定運営のために原則として年1回に限定しています。さらに、劣後出資の仕組みを取り入れて、貸し倒れが発生した場合は、理事の出資金を優先的に引き当てることとしています。設立の理念にも通ずる組織運営の特徴を挙げると、50口以上の出資希望者には必ず電話等で説明を実施しています(つかわれる資金の見える化)。過去にはこの説明によって減額されたこともあるようです。ただし、そこで大切にされている点は、金額の大小ではなく、まずは丁寧につながることであるとの方針を大切にしています。すなわち、こうしたつながりが後の追加出資につながり、出資者や利用者の輪を広げてゆくことになるとの運営方針を持っているのです。加えて、出資申込時に「出資者の声」を寄せてもらうことにしています。この理由は、出資者に対しては「他の出資者には どんな人がいるか」、また、融資先に対して「どんな想いが込められたお金が融資されているか」というつながりを実感してもらうためです。
「お金の地産地消」を考える勉強会in倉敷町屋トラスト
momoのホームページで掲げられた設立理念に見ると「わたしたちの預貯金は、(中略)地域が本当に必要としているまちづくりなどの市民による事業にはなかなか回っていきません。その結果、わたしたちの街はどんどん元気を失っているように感じられます。(中略)地域に住むわたしたちのお金を、自分たちの暮らしに生かされる形で循環させるために、わたしたちは「コミュニティ・ユース・バンクmomo(モモ)」を設立します。momoは、「こんな街や未来にしたい」という想いが込められた市民のお金を、地域に根ざした社会性の高い事業に融資します。出資する人、融資を受ける人momoに関わるすべての人が「お金の地産地消」を通してつながり、次世代を担う青年たちとともに、自分の住みたい街や未来を選択していきます。」とされています。
つまり大切な点は、[1]社会的に比較的弱いといわれる立場の企業を主な対象とする点、[2]資金が不足する弱者のための融資でその原資である出資は配当を一義的な目的としない点、[3]経済的に優位な事業者ではなく、信用力に乏しい経済的弱者が多い(地域の地場産業や商店街の個人事業主など)ため、経済的に弱い事業者が、自らの存立基盤を確固たるものに築き上げる(地域社会の持続可能性の追求)などの点であります。こうした活動が岡山の地でも芽生え、しっかりとした形で確立されることを望むものであります。
コミュニティ・ユース・バンクmomoの木村真樹代表、招聘された公益財団法人みんなでつくる財団おかやまの石田篤史代表理事、特定非営利活動法人岡山NPOセンターの石原達也副代表理事に心より感謝申し上げます。
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