このゼミ合宿は、卒論の中間報告であると同時に「中山間地域の将来を語る会〜豊田市旭地区を事例に〜」に参加し、パネラーである、M−easy代表の戸田友介さんや、豊田市最大の温泉旅館であり旭地区のランドマークである「湯富屋(とうふや)旅館」社長の中村芳樹さん、まちおこしプロジェクトの仕掛け人”夢かけ風鈴”実行委員会会長の三嶋秀樹さん、そして過疎化・少子高齢化対策と地域再生に取り組む敷島自治区近藤正臣区長さんなど、識者の皆さんの生の話をお伺いし、こうした中山間地域における持続可能なファイナンス面を考慮したビジネスモデルの構え方について、現地視察を含め、直接学ぶことが、学生達に与えられた課題です。
11月27日(土)、お昼に会場である旭交流館で同僚の山崎丈夫先生、谷口功先生、庄村勇人先生と合流し、まず13:30の開催に合わせて、学生達が机やいすを並べました。約80名分の座席をロの字型に組み、机を雑巾拭きして皆さんの到着をお待ちしました。13:00を過ぎると次々と住民の皆さんが会場に詰め掛けてくれました。豊田市からも社会部長をはじめ、複数の部署の調整監や専門監、そして教育委員会からも生涯学習担当部長など、複数の関係者が来場されました。
定刻に谷口功先生の司会で開会が宣言され、冒頭、小職より開催の挨拶を述べさせていただきました。また、塚本誠豊田市旭支所長さんが地元を代表されてご挨拶され、報告が開始されました。まず、山崎丈夫先生から「中山間地域の再生を考える」と題して基調講演がなされました。ついで、「地元でまちづくりを担って」(三嶋秀樹さん)、「耕作放棄地の再生と定住化をめざして」(戸田友介さん)、「”しきしまときめきプラン”づくりの経験から」(近藤正臣さん)、の順序でリレー報告が続き、最後に「地域活性化への思い」(中村芳樹さん)で結ばれました。会場からも多数の意見や質問が出され、予定時間を30分オーバーするという盛会となりました。閉会挨拶を庄村勇人先生が行い全てのプログラムが終了しました。
▲ ゼミ合宿に参加した学生たちと記念撮影(※山崎先生以外、名札と人物は異なります)
コミュニティビジネスの観点から感想を述べると、例えば、人が実際に住んでいる世界遺産として有名な岐阜県飛騨白川村には、キチンとした受け入れ態勢の整った旅館が多くはありません。また、地元の特産品もほとんど無いため、お土産物を中国や台湾からの輸入品に頼っているのが現状です。従って、世界遺産に代表される観光地としてのブランド力は高いものの、実際の観光客は大型バスで乗り付けて、数か所の合掌造りを見学すると、宿泊は福井や長野、岐阜県内としては下呂温泉や高山市へ逃げてしまいます。つまり、滞留時間が極めて少ないため、地域にお金が落ちないという悩みを抱えています。こうした点からすると、旭地区には報告いただいた中村芳樹さんが社長をつとめる「湯富屋(とうふや)旅館」をランドマークとして湯質の良い温泉旅館群を持っていますし、野趣あふれる多くの食材やまちづくりのシンボルとして定着した「夢かけ風鈴」や各種イベント、さらに耕作放棄地を再生しようと外部から若者が入るなど多彩な活動が展開されています。
ただし、訪れる者(観光客)の立場からすると、豊田市はクルマのまちのイメージが強く全国的にみると観光地であると認識している人は少ないと思います。その視座に立つと、豊田市には、旭地区だけでなく平成の大合併で新豊田市となった足助地区や小原地区、稲武地区、下山地区、藤岡地区など中山間地でありながら、それぞれに観光資源としての魅力を数多く備えた地域があります。これらの地区が合従連衡して、総合的な観光まちづくりビジョン=ブランディング戦略を描く必要があると思います。すなわち、これまで日本の農山村は隣の集落同士の「競り合い」を地域力の源として集落を維持してきた歴史を持っています(自然村理論=農村社会学)。しかし、それは総合力を発揮して「迎える側」の体制を整える際にマイナス要因となるケースがあります。つまり「訪れる側」の思いからすると地域集落間の「競り合い」は全く無関心な事項であります。地域におけるソーシャルファイナンスやビジネスモデル構築の観点から申せば、マーケティング戦略としてのプロダクトアウトからマーケットインへの発想の転換が必要であると感じました。全てのプランやアクションは100%訪れる側の視点に立ちそのビジネスモデルを考えなければ、観光面での地域の活性化は成功しないわけです。
学生達は、質問者へのマイクの受け渡しや駐車場の誘導、机や椅子の後片付けなどを行い、ゼミ合宿の全工程を完了しました。とても密度の濃い二日間であったと思います。