古都山口を散策

学会の担当、お役を無事に済ませましたので、JRで湯田温泉駅まで移動して、徒歩で市内を散策しました。荷物は新山口駅のコインロッカーに預け、革靴を脱ぎ、丸五さんの足袋型シューズで中秋の古都散策としました。

まずは、久しぶりに中原中也記念館を訪ねました。
また館内は坂口安吾とのコラボ展が開催中でした。
さて、中也は、ここ山口県湯田温泉で生まれ、30歳という短い人生で350編の詩を残しています。フランス印象派に影響を受けた、感情などの内面的なものを表現した作風が特徴です。
記念館はモダンな建物ですが、館内は撮影禁止ですので、建物の入り口に通じる通路にデザインされた中也の詩「汚れっちまった悲しみに」の前で記念撮影させて頂きました。
20歳の頃には、中也の詩や坂口安吾を読んだり、友達と人生を語り合うなかで、誠に感傷的になったり、虚空な心の中で自分を遊ばせるような時間を過ごしました。
つまり、中也に思いを馳せ、自分を中也の心に重ね合わせて、センチメンタルだったり、フランス的な退廃的な気持ちになったりする時代がありました。

汚れっちまった悲しみに
今日も小雪の降りかかる
汚れっちまった悲しみに
今日も風さえ吹きすぎる

汚れっちまった悲しみは
たとえば狐の革裘(かわごろも)
汚れっちまった悲しみは
小雪のかかってちぢこまる

汚れっちまった悲しみは
なにのぞむなくねがうなく
汚れっちまった悲しみは
倦怠(けだい)のうちに死を夢(ゆめ)む

汚れっちまった悲しみに
いたいたしくも怖気(おじけ)づき
汚れっちまった悲しみに
なすところもなく日は暮れる……

そのあとは、文化財の宿として名高い名園を持つ老舗温泉旅館「山水園」の「翠山の湯」で立ち寄り湯を楽しませて頂きました。
有形文化財に登録されている大正期に建てられた木造の本館とそのお庭へは入れませんでしたが、「翠山の湯」は竹林の山に沿って建つ、最高の雰囲気と源泉かけ流しのアルカリ性単純硫黄温泉のお湯を心行くまで楽しめる見事なお風呂でした。
タオルとバスタオルは付いていて、飲泉もできまして、入湯料も立ち寄り湯では最高レベルの1,600円でした。

その隣にある、熊野神社に参拝させて頂きました。この神社は、湯田温泉駅前で来る人をお迎えしている白いお狐様の由来のある神社であり、お稲荷様も祀られていましたが、一番、興味深かったのが、「縁切り」と「縁結び」の二つの願いのどちらでも選べる神社であることです。両方の絵馬とお守りに入れるご身体石が並べてお分け頂けるようになっていました。
そんなに多くは無いですが、参拝者が絶えない様子でした。

さて、それから随分と距離がありましたが、国宝の五重塔がある瑠璃光寺まで歩きました。大内文化の傑作、最高峰と言われるようですが、本当にあっぱれな美しさです。

あちらこちらに位置を変えては、塔を見えあげて、しばし佇み、どの角度もそれぞれに趣がありました。大内弘世像や本堂、そして閻魔像にも参拝、また、大池の鯉も泳ぐ姿を楽しませて頂きました。源平合戦では源氏を支援して、さらに室町幕府から長門・周防国の守護に任じられた24代大内弘世(おおうちひろよ)は、ここ山口を、都の京都に模して、何代にもわたり、まちづくりを長い時間をかけて進めたと言われています。いまの山口県の品の良いまち造りを始めた人として祀られているようです。

さて日が暮れて参りましたので、山口駅へ戻ることにいたしました。JR時刻表をみますと、しばらく待ち時間がありましたので、駅の近くにあります鰻処、「西京げんや」にて、特選二段鰻重(3,960円)をご飯多めで頂きました。天然物も入荷の札がありましたが、鹿児島産で頂きました。赤出しでしたがパリパリ感とマッチして大満足でした。
ご主人によると、「天然物は、本当に漁獲高が少なくて、獲る人は商いにはならないため、趣味で獲ったものをお店に入荷してくれています」とのことでした。
こうして山口駅から新山口駅へ戻り、新幹線で岡山へ戻りました。
充実した学会の二日間を全力で過ごし、おやつの時間から古都山口の散歩を楽しませて頂きました。