鳥取県三朝町“陣所大綱引き”

学生と留学生を連れ、5月3日から5日、2泊3日、実践型社会連携教育の一環として鳥取県三朝町で合宿でした。鳥取県東伯郡三朝町は、岡山県真庭市、鏡野町と隣接する、鳥取県の中央部(東伯郡の由来のとおり伯耆国の東部)にある町で、人口は約7000人です。ここ三朝町には、山陰を代表する名湯「三朝温泉」があり、豊富な湯量は中四国屈指です。さて、三朝温泉は「日本遺産指定第1号」です。源泉が見つかり、浴場として人々に親しまれるようになって平成30年で開湯852年を迎えました。発祥の地・元湯である「株湯」(300円)、中心街にある「たまわりの湯」(500円)、そして三徳川の中にある露天風呂「河原風呂」(無料)という3ヶ所の共同浴場があります。そして三徳川両岸には大小20数軒の旅館が建ち並び、温泉街には、木造3階建ての老舗旅館をはじめ、食堂やスナック、レトロな理容室や射的場、みやげ物屋が軒を連ねています。現在は営業をしていませんが、今ではユニークなストリップ劇場の看板がそのまま残され、昔ながらの温泉街の風情をとどめています。

一方、川の対岸には大型の観光ホテルが軒を連ねています。旅館やホテルにより金額が異なりますが、立ち寄り湯が楽しめます。今回は、一昨年度に続き、三朝温泉「花湯まつり」に合わせて、120年前から伝わる国の重要無形民俗文化財指定の「陣所(ジンショ)」“大綱引き”に、準備から本番までフル参加、また三朝館にお願いして、温泉の清掃作業体験と茶道体験をいたしました。岡大の一行19人は、祭りに使われる東西二本(雄・雌)の綱を編む「綱からみ」という作業に加えて頂きました。この綱は、1本が全長約80メートル・総重量2トン・胴回り1.5メートルという巨大なもので、一日かけて、言葉を失うほどに巨大な綱の製作が行われました。

この作業のために、まず約3週間かけて、地域の皆さんが地元の山を中心に藤かずらを集めてきます。こうして集められた藤かずらは、まず数日間川に浸して柔らかくしてあり、これをさらに木槌で叩いて加工しやすくします。かずらを結ぶ紐も、同じかずらの皮を剥いで作ります。留学生たちは、三朝区ジンショ保存会の藤井博美会長はじめ地域の皆さんや地元小学生から指導、手ほどきを受けながら、木槌でかずらを加工しやすくする作業と、皮を剥いで紐を編む作業の二組に分かれ活動を開始しました。

次に、こうして準備されたかずらを、それを数人がかりで、手で抱えあげながら、掛け声に併せて80メートルになるまで、つなぎ合わせ、さらに太い1本の綱になるよう束ねて編み込んでいきます。そして、解けないよう等間隔で結わえながら、それを綱引きの引き手としても活用します。全て天然の藤カズラを使って編む伝統の知恵と技が凝縮された手法に驚きました。東軍が勝てば五穀豊穣、西軍が勝てば商売繁盛、大綱(縄)の先端部は、巨大な♂♀を形作ってあり、和合を表しています。

こうして初日は、藤カズラを使って綱を編む作業を無事に終え、公民館で食事を頂きながら花火を楽しみました。

二日目の5月4日は、日本温泉旅館「三朝館」をお訪ねして、温泉と庭の掃除作業体験をさせて頂きました。約1時間の作業では、全員、一生懸命汗をかきました。作業終了後、2階にご準備いただいた和室で、裏千家の茶道体験をさせて頂きました。留学生にとっては初体験で、全員が興味津々です。先生のご指導に従い、まずお菓子のお団子を頂き、いよいよ茶筅で抹茶を点てました。正座が苦手な学生もいましたが、最後は結構さまになっていました。

次に昼食を頂き、そのお部屋で、三朝館野口統括本部長より昭和14年から続く三朝町と岡山大学とのつながり、松浦町長さんから三朝町の魅力について講話を頂きました。

さて、夜はいよいよ大綱引きの本番です。公民館にて留学生たちのなかで綱引きに参加する学生たちに法被が渡されました。そして、昨夜、それぞれ2本の大綱を移動した場所から、陣所が行われる「緑門」中央場所へ「オイサー」のかけ声を上げながら担ぎ出します。夜も9時を回り、いよいよ陣所が始まります。雄と雌の大綱の頭部を樫の木の棒で結合させて大綱引きが始まります。法被をきた面々が大綱の先端を高く掲げ、その先端に双方から選ばれた荒武者が登って結合させようと挑みますが、なかなか結合できません。やっと数回目の仕儀で結合しました。その瞬間に大綱引きがスタートです。東西に分かれ、見知らぬ同士が本番でも「オイサー」の掛け声に合わせて渾身の力で綱を引き合います。勝負は西の勝ちと宣言されました。

ともあれ勝敗は問題ではありません。地元の人々と観光客、そして外国人も大勢が参加、一堂に会し一体となり、まつりに参加して喜びを分かち合う感動の瞬間、その素晴らしさに胸を打たれました。この先人の知恵に裏付けられた伝統と文化の継承は地域、そして日本の宝であると思います。そして、日本人学生はもとより、留学生たちにとっては、得がたい日本の伝統や文化に肌で接することが出来たと思います。こうして陣所大綱引きは無事にフィナーレとなり、片付けを手伝った後、公民館へ戻り、鳥取大学と岡山大学の学生で反省・交流会です。互いに健闘を讃えながら、貴重な「無形文化財」体験学習として熱い時間をすごさせて頂きました。三朝町の関係者の皆様方に心より深く感謝申し上げました。

翌5月5日は、朝から合宿所で反省会を行いました。各人、参加体験を振り返りながら気づきを発表しました。様々な感想や意見が出されました。報告を聞きながら、この学びが実践型社会連携にふさわしいプログラムであることを確信しました。

三朝の帰り、途中には人形峠があります。そして峠には岡山大学人形峠サテライト研究室(現在休止中)があります。ここ人形峠は日本で初めてウラン鉱床が発見された所です。

研究室に隣接する岡山県「人形峠かがくの森プラザ」に立ち寄り、原子力や環境問題、宇宙ステーションと地球の周囲にある宇宙のゴミ(スペースデブリ)などについて学びました。日本語の解説が中心で英語など外国語表記が極めて乏しく、また外国語のパンフレットなども無かったため留学生には難解だったようです(私に説明する能力が無かったと言うのが正しい)。

また、鏡野町奥津温泉道の駅で、やま弁「春べっぴん」を2種買い求めました。全て地の旬の食材で、お味は最高です!

心に残る学生と過ごしたGWでした。