新見市『環境保全型森林ボランティア活動』

平成28年度後期『環境保全型森林ボランティア活動』が2月28日から10日間の日程で始まりました。2月28日の午後、県内を中心に全国から学生たちが新見駅に集合、食事のための買出しや共同生活に必要な物資、そして間伐作業に必要な装備の準備を済ませて神郷温泉(新見市神郷高瀬3188-1)の宿舎(合宿所)へ向かいました。今年は例年に比べ雪がすごく、最初に降った大雪が根雪として残っています。それでも学生たちは元気で、宿舎へ入るとすぐにミーティングをはじめ準備にとりかかりました。今回の参加は、県内が新見公立大学2名、岡山大学11名、県外が三重大学1名、東京農業大学1名、東京環境技術専門学校2名の総勢17名、初日は定番のカレーライスで乾杯です(未成年は飲酒厳禁です)。

岡山県新見市の森林状況は、森林面積79,327haの大部分を民有林が占め(59,292ha)、林野率は約87%です。また、人工林率は約59%で、その大部分はスギ・ヒノキ(94%)で占められています。なお、岡山県はヒノキの生産日本一を誇ります。一方で、木材材価の低迷、林業従事者の減少・高齢化等により、市内の森林施業の実施は年々困難になりつつあり、間伐等の保育作業を緊急に必要とする人工林が増加しているのが現状です。こうした状況は全国のあちらこちらで発生していると思われます。


今回は、岡山大学が誇る林学の権威、吉川賢名誉教授に参加を仰ぎ、わが国の林業の歴史、現状、課題、未来像について夕食後にレクチャーを頂きました。学生たちはもとより、学生たちを指導・サポートしてくださる林業のプロの皆さんも興味深く耳を傾けていただき、その後で専門的な観点から意見交換がなされました。小職と吉川幸実践型教育コーディネーターからは、寒さに負けず、怪我に気をつけ、教室では得られない実践知を学んでもらいたいと伝えました。

作業初日、3月1日は、研修会場の新見市森林組合へ向かいました。まず、主催の一般社団法人「人杜守」の理事から挨拶があり、次に新見市、新見市森林組合、岡山県備中県民局による挨拶と講話、そして学生の自己紹介、小職挨拶、地域おこし協力隊挨拶と続き、休憩をはさみチェーンソー研修が行われました。関係者全員から、安全第一での活動に心がけ、実り多い実践的な学びにより生きる力を身につけて頂きたい旨が伝えられました。

昼食を済ませた後、さっそく現場へ向かい、作業全体の諸注意と実際にチェーンソーを使った研修がありました。そして、指導者の指示に従い、予行演習的な位置づけの作業が開始されるという流れです。夕方までに、一通りの学習を済ませて宿舎へ帰りました。

さて、われわれは、森林ボランティア活動の合間をぬって、初日はカツマル醤油の岡本研吾社長、3月1日には、新見公立大学の公文裕巳学長を表敬訪問させて頂きました。カツマル醤油さんは、岡本社長で3代目、明治32年の創業で、「伝統の技と本物の味を守りながら お客様のお声に常に耳を傾け、今の時代にぴったりと合う新しい感覚を持つ醤油製品の開発に努める」伝統の味を現代に伝える岡山県が誇る老舗の名店です。エピソードとしては、本地域総合研究センターの吉川幸女史(写真)と岡本研吾社長が縁戚関係であることが当日判明しました。世間は狭い。お身内の話題で盛り上がりました。また、岡本社長から、「岡山大学が地域の大学間と自治体との連携に力を発揮するよう期待している」と激励いただきました。

次に、新見公立大学訪問です。まず同大学について紹介しますと、岡山県新見市を母体として1980年に新見公立短期大学として創立され、看護学科と幼児教育学科を源流として、開学以来、約5,000名以上が卒業し、看護、保育、福祉に関連する多くの職場で高い専門性を発揮して活躍しています。基本理念は「誠実、夢、人間愛」を謳い、専門的知識・技術の学修に基づく実践能力とともに、人間力の向上に力を入れている大学であり、現在は、短期大学、4年生大学、そして大学院を擁しています。森林ボランティア活動についても数多くの参加者を出し、看護や介護などの現場での経験を有する学生たちは生きる力に富んでおり、活動のリーダー的な存在です。今回は、新しく7代目学長に就任された公文裕巳学長をお訪ねしました。


公文学長からは「人間の総合力は、知識、技能など数値化できる学力と、必ずしも数値化ができない人間力との総和である」と同時に「卓越した専門職としてのスキル」が求められる、さらに「どうすれば、夢が実現するのかを考え続けることが、主体性と協調性の向上、物事の多様性への理解など人間力の向上につながる」という信念と気概を持つことが重要であり、この森林ボランティア活動に対しても評価をいただくことが出来ました。

地域と大学のあり方について、大所高所からのご示唆を数多く拝聴させて頂きました。

お二人の大先輩に感謝です。

さて、3月2日は、早朝5時に朝食・昼食係りの学生たちが支度する様子をみようと起床、7時に出発、作業現地へ向かいます。朝礼と全員で柔軟体操を実施、チェーンソーや備品の確認、3グループに分かれて山へ入ります。主催の一般社団法人「人杜守」、岡山県備中県民局、地域おこし協力隊「林業男子」の指導で間伐作業が進みます。途中で新見市の方も様子を見に来てくれました。

伐木する側の「受け口」、倒そうとする側と反対の「追い口」を作るチェーンソーのけたたましい音、そして「追い口」にクサビが打たれ、そのクサビをたたく木槌の音がこだまし、一瞬の静寂、そして50年を過ぎた檜の大木が、切り倒される際の轟音と地響きが残雪の山間を走ります。毎回ながら、この木が製材されて、木造住宅の大黒柱として様々な生活のシーンを見守り続けるのだと想像すると、ワクワクしてまいります。学生たちは3月、雪の残る急斜面でたくましく鍛えられます。座学では、到底に身につけることができない体験と共同生活により顔つきが変わるのです。

最後まで、安全に留意して、元気に山を降りてくる日を待ちたいと思います。