豊岡市訪問①まち歩き


地域総合整備財団(ふるさと財団)は、民間能力を活用した地域の活性化を支援するため、全国の都道府県及び政令指定都市が出捐して設立された組織で、地域活性化につながるふるさと融資、地域再生の取組、公民連携の推進、地域産業の創出・育成への支援など、各種事業を実施、「ふるさとの元気を引き出す」支援をしています。同財団の事業に地域再生マネージャー事業があり、地域再生に取り組む市町村に対し地域再生マネージャー等各分野の専門的知識や実務的ノウハウを有する人材を活用する費用の一部を支援する事業で、当該地域の段階・実情に応じた地域再生の取組を促進することを目的としています。同事業のアドバイザーとして、今回は、6月7日~8日、兵庫県豊岡市を訪問させて頂きました。
豊岡市は、城崎温泉のまちとして知られていますが、さらに、コウノトリを復活させたまち、そしてカバンの製造は日本一を誇ります。そして、兵庫県は日本海と瀬戸内海と言う二つの海に面する県であり、その県北側の要の都市として、山陰道の歴史と文化を育みながら長く栄えてきた街です。一方で、ご他分に漏れず、人口減少が進む中で、地域の創生を積極的に目指している都市です。
さて、6月7日、財団の本体は東京から京都経由です。私は岡山からですので、姫路経由で北上するコースを選択しました。このルートですと、在来線の特急との接続の関係で、一行よりもかなり早く着く行程となりました。そして姫路発8時58分の「はまかぜ1号」で豊岡まで参りました。姫路駅では、朝昼兼用の食事として、奮発して国宝姫路城を模した豪華「五層あなごめし」(1,680円)を買いました。穴子の風味と卵焼きの甘さがマッチした絶妙な逸品でした。車窓からの景色は姫路城を過ぎてしばらくしますと地域の駅をと駅をはさみ、集落が広がりますが、途中からは山と川の連続であり、自然の景観に心癒されました。途中に、竹田城址を見ることができました。いつか行ってみたいポイントのひとつです。さて、豊岡駅に定刻に到着、ホテルに早々にチェックインを済ませて荷物を預けて、軽装で商店街を見て歩きました。そして、カバンストリートを丁寧に見学させて頂きました。また、一級河川の円山川まで参りました。お天気に恵まれ日本海から近いこともあるのでしょうか、風はなんだか夏を感じさせてくれました。
さて、豊岡駅へ取って返して、財団の本体と合流、豊岡市のくらし創造部の方々が出迎えてくださいました。まず、改装途中と言いながら1階は、自由に市民や学生たちが集える商店街のほぼ中央にある空店舗を活用した拠点で学生と待ち合わせいたしました。学生たちは、平田オリザ学長のもと、徹底した体験型学習で舞台や劇場の演出、アートマネジメントツーリズム産業や観光まちづくりのプロを育成する芸術文化観光専門職大学の学生さん達で、同財団で私と同じくアドバイザーを担当する高橋伸佳教授(専門はスポーツ健康科学、経営学、観光学)のゼミ生です。
さて、同施設の2階は改装が着々と進んでおり、別室には、あちらこちらから集められた、様々なプロ仕様の工作機械が並び、また、イベントに使う資材や改修用の資材までが準備されていました。さらに3階は広い打ち抜きの空間となっていましたが、市の説明では、天井にアスベストが使われているため、改造が禁止されているとのことです。ここでは、松宮未来子さんから、まちづくり活動の全体説明を受けました。また、豊岡音楽祭などの催事や再生した豊岡劇場の歴史や企画運営体制についても興味深いお話をお聴きすることができました。
さて、松宮さんに連れられて、まち歩きに出発です。ブラタモリスタイルで、ポイントポイントでクイズを出題してくれます。学生たちは積極的に答えてゆきます。この掛け合いをとても興味深く拝見させて頂きました。若者がまちに興味を持つ、第一歩がそこにありました。
入口に、コシノフラワーショップやあずみ花店など花屋さんが目を引く路地を入ってゆきますと、そこは古くからの「ふれあい公設市場」があり、長く奥まで続きます。八百屋さんや果物屋さん、お洒落な珈琲ショップや食堂、天ぷら屋や老舗の鰻屋さんまで、とても興味深く視察させて頂きました。また、ここのアーケードは木製であり、天井は伝統工芸美術品のようにも見えました。日本で一番古いアーケードのひとつだそうです。さらに驚いたことに、松宮さんのクイズにも出されましたが、この通りの下は川になっていて、川の上に商店や家屋が建築されているのです。また、狭い路地は、江戸の長屋の間の水路よろしく、火事の延焼を食い止めるために、家と家の間に路地を計画的な都市計画としてしつらえてある、その姿をいまに留めています。さらに道路の向こう側には、青空市場も健在で、この利活用が課題になっているとの説明を受けました。
次に、ここ豊岡は、関東大震災から2年後、1925年(丁度100年前)に発生した、北但馬地震で大きな被害を受けた都市です。気象庁によれば「1925年(大正14年)5月23日、兵庫県北部を震源とするマグニチュード(M)6.8の地震が発生し、兵庫県に甚大な被害をもたらしました。北但馬地震は兵庫県北部を震源とする陸域の浅い地震で、豊岡測候所で震度6を観測しました。この地震は、円山川流域、特に豊岡、城崎の町に甚大な被害をもたらしました。当時、建築物の大半が木造であったため、地震の初動で建物の多くは一気に倒壊しました。また、地震の発生が昼時であったため、食事準備で火を使っていた民家や旅館では、家屋倒壊に伴い瞬く間に火の手が上がり、多くの建物が消失しました。一方、港村田結(現在の豊岡市田結)では83戸中82戸が全壊し、村民65人がその下敷きになりました。一瞬にして3か所から火が燃え上がりましたが、村民は救助より消火を優先して延焼を食い止め、消火後に58人を助け出しました。(豊岡市ホームページによる)」とあります。この地震の際に、商店街のなかでコンクリート造りの建物が、延焼を食い止め、その建物が100年を過ぎた今も現役であるとのお話をお聞きしながら、現地を案内いただきました(11軒長屋と3軒長屋)。また、その様子を陸橋の上からも観察させて頂きました。こうした「豊岡震災復興遺産」を活用しながらまちづくりが進んでいる点に一同から感嘆の声が洩れました。すなわち、豊岡商店街での新鮮かつ驚きの発見は、専門家の説明によるまち歩きでないと、ただ単に通り過ぎるだけでは、気が付くことはできません。北但馬地震から100年経ったまちの強靭さも拝見できましたことに感激の連続でした。

次に、ご案内いただいたのは、地域創生の拠点として、全国的に有名となっている「だいかい文庫」です。ここは珈琲を頂きながら自由な時間を過ごせる書店で、その特徴は「貸出本は、すべて一箱本棚オーナーさんからのおすすめ本で、初回に300円支払えば、2週間2冊まで無料で借りられるシステムです」。また、購入できる図書もあり、さらに2階は書斎として使え、リモートワークにも適している自分だけのスペースを確保できる仕組みであるとのご説明を受けました。われわれが視察させて頂いたときにも1階ではお客様が会話を楽しんでおられ、とても良い雰囲気でありました。
こうした、長い歴史の中で積み重ねてきた資産を、新しい時代に活用しながら、創意工夫で若者が自らまちづくりに興味を持って参画する意識を自然に生み出す仕組みが出来上がっていて、それを地元出身の方はもとより、外部から地域おこし協力隊などを契機として、移住転居した方が共に創り上げる地域再生の実践活動に脱帽でした。