人を大切にする経営学会 第3回全国大会

人を大切にする経営学会の第3回全国大会に参加、会場は世田谷にある駒沢大学深沢キャンパスです。すばらしい環境と会場、そして何よりも事務局やスタッフの皆様の気遣いに感激した2日間でした。

大会初日、8月27日は11時から理事会が開催され、総会へ諮るための重要な議案について、最終の審議がされました。審議終了後、事務局が昼食をご用意くださり、1年ぶりの顔ぶれに話が弾みました。午後から開催された総会では、活動実績、活動計画、予算、役員の選任などの議案が採択されました。

さて大会では、冒頭、会長挨拶に坂本光司法政大学大学院教授、そして開催校からは廣瀬良弘駒沢大学学長の名代として猿山義広経営学部教授・教務部長が、大会実行委員長として渡辺伊津子駒澤大学教授が挨拶されました。


続く基調講演では『帝国ホテルの歴史とおもてなしの心』と題して帝国ホテル小林哲也代表取締役会長が登壇されました。明治維新、鹿鳴館に代わる迎賓館として1890年(明治23年)に建築された帝国ホテルは、本格的な西洋式ホテルで最高のおもてなしを提供するという志を大切にしながら、明治以降の日本の歴史と共に歩んできたことを改めて学ぶことができました。そこで培われてきた心に染み入るホスピタリティの深さ、サービスマインドに感嘆いたしました。数々のエピソードを交えながらの講話から、お客様を大切にする経営の真髄を学ぶことができました。とりわけ、東日本大震災の際には、帰宅難民2000人の人々のために、誰からの指示も無く、非番のスタッフも出勤するなど総出で対応にあたり、ロビーや宴会場を開放したそうです。そして、毛布や水、保存食、そして夜を徹して、温かいスープを2000人分こしらえて無料で提供した逸話には、思わず目頭が熱くなりました。

私事ながら、これまで、素人ながら、都内のホテルを中心に30回近く友人に頼まれて披露宴の司会を経験しています。披露宴の司会は、もてなす側の一員ですので、事前にホテルとの綿密な打ち合わせが大切です。当日も祝宴が始まる前からホテル側に立ち宴会係の方々と息を合わせて開始を待ちます。そして、フィナーレまで皆さんをもてなします。

帝国ホテルでは、3回、司会をさせて頂きましたが、一番安心できるのが帝国ホテルです。例えば、事前の打ち合わせでは、まずは、黙って新郎新婦側のリクエストを聴いてくれます。中には、かなり無茶なリクエストもあります。そんな折にも決して慌てません。そして、新郎新婦の意に沿いながらも、新郎新婦、家族、親族、そして媒酌人や来賓との関係性やバランスを十分に踏まえた上でナチュラルな提案がされます。これは、過去からの数々の経験知を引き継ぎながら、担当者が「帝国が提供する披露宴とは何か」を熟知・共有している証であると思われます。もちろん、奇をてらうような提案やホテル都合のオプションプランが出ることはありませんので、司会者は安心できます。

本番はコース料理でもてなすわけですが、必ずスピーチとスピーチの合間で料理が静かに、そして丁寧かつスピーディに運ばれます。また、その立ち振る舞いも鍛えられ、息が合っています。スピーチと食事が一体となった進行に合わせて司会も進行する流れ、つまりホテル側全員が心技一体となって心を込めてもてなすという「品格」のレベルが、他の名門と呼ばれるホテルと比べ、群を抜いていると思います。そして、つつがなく披露宴がお開きになったときに、新郎新婦の友人だったはずの自分が、いつの間にかホテルマンになったような錯覚に陥る、そんな、すがすがしい気分にさせてくれるのが帝国なのです。
昔から、漠然と「最高なホテル」という印象を持っていたのですが、小林哲也会長のお話をお聴きして、本当に腑に落ちました。

人を大切にする経営学会では、経営者と従業員との関係性をテーマに議論されることが多いのですが、帝国ホテルでは、経営者はもとより、部署は違っていても、従業員同士が互いを信頼しあい、深い絆で結ばれ、互いを大切にしていると感じました。縦の糸と横の糸が信頼の絆で織り上げられ、「品格」を持ってお客様を温かく包み込む、それが帝国ホテルです。
さて、続く「実践企業事例発表」では、島根電工株式会社の荒木恭司代表取締役社長が登壇され、財政難が続くなか公共投資や公共事業が削減され電気工事事業も削減されるという厳しい環境を乗り切るために、公共入札主体のB to Bビジネスモデルを見直し、「住まいのお助け隊」を組成して一般個人の顧客獲得を主としたB to Cモデル或いはB to B to Cモデルを取り入れ、売上利益を大幅に向上させた事例が報告されました。また、その際に、従業員の残業を減らすために、携帯端末機を導入して業務の飛躍的な改善を図ると共に、従来からの営業職は営業に専念、技術・工事実施担当者は作業に専念という既成概念を取り払い、大幅なモチベーションのアップを実現したなど、従業員が喜びを感じながら勤務する流れを定着させているとの報告に会場から惜しみない拍手がおくられました。

次に、中国最大のストロー製造会社に成長した「双童日用品有限公司」の楼仲平董事長からは、創業時に続いた顧客からのクレーム処理により、一時、経営が破綻寸前まで陥った危機を脱して以降、徹底した職場環境の整備に注力され、働きやすく、社員が喜びに満ち溢れるインフラ整備と社員・家族中心主義の制度導入により、社員を大切にする経営の実践に徹しているとの報告がなされました。コメンテーターから「利益ばかりを追求して、商品の品質や社員の労働環境は二の次という発想しか持たないという中国企業に対する印象が180度変わりました。」との発言を引き出しました。

さて、大学教員は研究者として、いくつかの学会に入っていますが、学問的な知見のすばらしさに感動することはあっても、人としての感情が動くことは、まずありません。この「人を大切にする経営学会」は、人間愛やヒューマニティを起点にして、未来の経営を実践しようとする集団です。そのことを改めて実感させて頂いた大会初日でした。
夜の懇親会では、開催校から廣瀬良弘駒沢大学学長が挨拶と祝辞を述べられるなど、何名かの方が、こうした学会の趣旨にふさわしいスピーチをされました。


二日目は、現地入りする前に、朝の駒沢公園を散策いたしました。台風接近の影響からか、小雨模様で肌寒いくらいです。それでも大勢の人たちがジョギングされています。ここ駒沢公園も次回の東京オリンピックまでには、化粧直しもあるとか、そんな想いを胸に会場へ向かいました。

さて、分科会主体の二日目は、第4分科会「自由論題」のコメンテーターを担当させていただきました。進行役は中小企業家同友会全国協議会の松井清充専務幹事が担当されました。発表1は、「障碍者活躍現場におけるアーキテクチャと身体知移転プロセス」産業技術大学院大学の亀井省吾先生、発表2は「人を大切にする会社の就業規則」人を大切にする経営をサポートする弁護士ネットワークの弁護士の先生方、発表3は「人材の見える化」一般社団法人日本人材開発研究所の奥野嘉夫氏、発表4は「中小企業への障害者雇用促進の重要性と推進方法」東京海上日動システムズ株式会社の瀧川敬善氏、発表5は、「台湾で20年間取り組んだ人を大切にする経営から生まれた奇跡の物語」株式会社角田識之事務所の角田識之氏でした。


5つの報告は、どれも秀逸であったと感じました。それぞれにコメントをさせて頂きました。こうして、分科会終了後に、会場を昨日の大ホールに移し、各会場で司会或いはコメンテーターを務めた担当者のいずれかが壇上に勢ぞろいして、各会場の報告を紹介しあいました。第4分科会では、小職が各報告へのコメントを担当させて頂きましたので、まとめは松井清充専務幹事にお願いいたしました。全体の進行役は、アタックスグループの西浦道明代表が担当されました。

最後に、次回の大会は法政大学での開催であると宣言され、第3回大会は無事に終了いたしました。なお会場では、世田谷区内の障碍者施設の皆さんが作られた商品が販売されました。

心洗われながら、明日への希望と勇気を頂いた学会でした。主催校、大会関係者、事務局、スタッフの皆様、すばらしい時間を本当にありがとうございました。