ふるさと財団 利尻町調査 その1

地域総合整備財団(ふるさと財団)は、民間能力を活用した地域の活性化を支援するため、全国の都道府県及び政令指定都市が出捐して設立された組織で、地域活性化につながるふるさと融資、地域再生の取組、公民連携の推進、地域産業の創出・育成への支援など、各種事業を実施、「ふるさとの元気を引き出す」支援をしています。同財団の事業に地域再生マネージャー事業があり、地域再生に取り組む市町村に対し地域再生マネージャー等各分野の専門的知識や実務的ノウハウを有する人材を活用する費用の一部を支援する事業で、当該地域の段階・実情に応じた地域再生の取組を促進することを目的としています。今回は、令和2年度に同事業の採択を受けて事業化が進んでいる北海道利尻町へ、7月11日、12日、一泊二日の日程で、同事業アドバイザーとして現地調査、ヒアリングへ参りました。

事業名は、「利尻町漁業の担い手獲得・育成 のための支援組織運営事業」、事業概要は①漁業の担い手獲得・育成の支援組織「利尻町定住・移住支援センター」の運営 、②人材獲得・育成のための支援メニューの実施 、③新規事業創出(収益向上)、④漁業の六次産業化推進のための加工場整備に向けた調査、 ⑤新事業創出(六次化)、⑥担い手獲得に向けた情報発信、です。
専門家として、NPO法人離島経済新聞社代表理事の大久保昌宏さんが派遣されています。大久保さんは、全国の離島地域を対象に地域経営支援や各種プロモーション、移住定住促進業務等に従事してきた豊富な経験と実績を持たれており、本事業では、産業振興や過疎地域・限界集落の振興を得意分野とする事業ディレクターとして、主に教育・人材育成、人と人、組織と組織をつなぐ中間支援的なコミュニケーションサポートを担当されています。

1利尻町と町役場訪問

北海道利尻町は、北海道の北端の都市である稚内市の西方約53Kmに位置する利尻島の西南端に位置しています。島の中心には銘菓「白い恋人」で一躍有名になった日本百名山のひとつ標高1721mの利尻富士がそびえたち、明治の開拓以降、鴛泊・石崎・鬼脇・仙法志・沓形・本泊の六つの集落からまちができています。昭和以降の町の歴史は、昭和31年に利尻島内の四つの自治体の中から仙法志村と沓形町が合併して利尻町が生まれています。なお、島内には、もう一つ利尻富士町があり2町で利尻島182.14平方キロメートルを形成しています。
さて、春から夏にかけては、猛暑の本州と異なり涼しくて過ごしやすく、北海道には梅雨が無いと言われますが、島内はいたるところが花であふれていました。そして、今回の調査の主目的の一つが、全国屈指と言われる「利尻昆布」と、その昆布を食べて育つ最高級の「ウニ」を資源として、人口減少で担い手が不足する課題を如何に克服するか、その取り組みを現地で学ぶことです。
まさに、日本海の海の幸に恵まれた漁業と観光の町は、基幹産業である水産業・観光産業の振興を始め、次代を担う子供たちはじめ島で暮らす人たちの生活環境の整備を重視しつつ、住んでよかったと実感できる、まちづくり、地方創生を目標に掲げて町づくりを進めています。
さて、7月11日、利尻空港に到着、空港まで大久保さんと同僚の八木橋舞子さんが出迎えて下さり、二日間、ご案内を頂きました。まず、早々に利尻町役を訪問いたしました。総務課企画振興課の小坂勝哉係長と北海道庁から出向の岩崎澪主事がご対応下さり、地方創生に関する数々の施策や実際の取組みについて、本音でお話しいただきました。特に「国の政策シナリオや補助金ばかりに頼る姿勢では、真の地方創生は望め無い。民が主導で稼ぐ流れを、ほんの少しだけ後押しすることが公助の役割であると確信している。」の言葉が印象的でした。まさに、自助、共助、公助についての議論が盛んに行われていますが、自助、共助が主体で動かなければ、補助金ばかりに頼って再生した創生事例は、ほとんどなく、あくまで公助は初動や助走期間のイニシャルコストであることが望ましく、ランニングまで補助金に頼ることは、公助の原資・元手が、そもそも税金で賄われていることを考えれば、マイナスの連鎖になりかねないことを、改めて利尻町で学ばせて頂いたと感じました。
当ふるさと財団の事業を活用している自治体では、北海道の事例が多く、成功している手本となる事例も数多くあります。北海道のパイオニア精神に満ちた気質であると思料いたしました。また、大久保さんから、本地域再生マネージャー事業が、予定通り順調に進み、姉妹事業として利尻町に続く鹿児島県知名町との連携も概ね良好であるとの報告に安堵いたしました。

2一般社団法人ツギノバ

利尻町のまちづくり活動を支えながら、新たな取組にチャレンジしている組織が、2020年7月8日(水)、旧沓形中学校を改装、利尻町定住移住支援センターとして開設された、大久保昌宏さん率いる「ツギノバ」です(所在地利尻郡利尻町沓形字日出町55旧沓形中学校技術室)。ここは、定住移住に関する一次窓口として、ワンストップで相談等を受け付け、住宅や仕事といった定住移住相談はもちろん、利尻町での暮らしにまつわる情報発信などを行っています。ツギノバの由来は、ご想像通り、「次」の未来を創る「場」を意味しています。

①地域の情報と交流の拠点

われわれが訪問した際も、利尻島内外をつなぐ交流スペースとして色々な方々が語らっていて、また島で使われていた漁具や、旧沓形中学校舎の黒板などのかつての素材を生かしたカフェラウンジがあり、黒板には島の移住定住情報がチョークで丁寧に書かれていました。また、小学生たちが宿題をしたり卓球を楽しんだりしていました。子供たちの学習支援の拠点にもなっているそうです。こうして島で暮らす方々の憩いの場、観光の立ち寄りスポット、ビジネスのテレワーク拠点など、さまざまな用途で利用されています。そのコンセプトは、「この場所を起点に、島に暮らす人たちと、ご縁があって島を訪れた人たちが出会い、つながり、地域に彩り豊かな未来を生み出していくこと」であると謳われている通り、皆さんが気さくに声をかけてくださいました。そして丁寧に煎れて頂いた珈琲の味は最高でした。ドリンクメニューは、紅茶やハーブティーはじめ多彩です。くつろげるソファやハンモックがあり、長居ができるくつろぎのお洒落な空間が演出されています。

さらに家庭科教室跡は、六次産業化の加工拠点として改装が進められており、また、体育館は、冬の期間は子供たちが外で遊ぶ機会が制限されるため、室内で遊べるようにスケートボードやBMX(自転車競技)の練習施設が整備されていました。道内の業者さんから、輸送費と設置費用はツギノバさんが負担しましたが、古くなったモデルを無償で譲受けたそうです。また、体育館の半分は厚めの人工芝が敷き詰められていました。これも冬場対策であると感心しました。
 加えて、ワーケーション、テレワーク等の島外企業の受け入れ体制が進められており、教室をオフィス用に改装、緑に覆われた校庭は、大都会のコンクリートジャングルとは隔絶した、憩いの空間で、自由気ままにアイデアを創造できる環境が整えられています。そして、驚いたのが、大久保さんの人脈とコーディネート力で、既に多くの部屋やスペースが予約で埋まっている点です。

岡山県内でも海が見える景観としては最高のスポットにワーケーションやテレワークの拠点を開設している事例がありますが、入居者探しに苦労している例が多いのが実情です。大久保さんは北海道庁などと緊密に連携を取りながら、関係イベントや説明会などに積極的に出向き、自ら人的ネットワークを築きあげて、そのネットワークをベースに、更にその輪を広げて、入居者の獲得に動かれています。その熱意と行動力に脱帽でした。

②漁業後継者支援

さて、現在、利尻町では漁業者の高齢化がすすみ、後継者不足が深刻な状況にあります。その現状を打破するために、利尻島内の各関係機関で立ち上げた「利尻地域漁業就業者対策協議会」や「利尻町」で漁師を志す人へ対策や支援を行っており、漁師道とネーミングされた「利尻地域漁業就業者対策協議会」が実施する新規漁業就業者向けの支援制度について説明を伺いました。まず、利尻島で漁師を志す方は、2週間の漁業体験(研修)を通し、仕事内容や漁業の楽しさ、やりがい、利尻島の生活を体験、まず2週間で漁業に興味を持ってもらい、動機づけを実地体験でする期間を設けています。

そして次のステップとして「新規漁業就業者確保・育成対策事業」支援制度が準備されていて、最長3年まで研修を受け経験を積むことが出来る仕組みになっています。この期間、面倒を見てくれる親方的な漁師さんが指導に当たってくれる充実したプログラムが用意されています。加えて、利尻町では、漁業後継者へ報奨金を贈呈する支援を行っており、報奨金制度を活用して、小船や漁具を揃え自立でき、先輩たちが面倒みよく相談に乗ってくれる仕組みが整備されています。ツギノバは、役場や漁業関係者と連携しながら、こうした就業相談にのる拠点としての機能を果たしているのです。

また、空家対策でも大きな成果をあげておられ、全国で取り組まれる空家の流動化では、所謂「仏壇問題」があり、所有者が仏壇をそのままにしたり、家財道具の処分ができないままに、他人に貸したり売却できないケースが多い点が課題として指摘されています。その点も、借りる側の若い世代は、仏壇や家財や故人の写真があっても違和感はなく、お盆や正月に帰省する際には、家主に戻ってもらっても良いように家をきれいにしておき、また、貸す側も仏壇を含めて家が傷まないように暮らしてもらえるのであれば、釘打ちなど、家を改装して自由に使ってもらっても良いとの条件で合意形成が進んでおり、移住定住者向けの空家の準備が、利尻町の理解と協力を得て政策として推進されている点に大いに感激いたしました。また、鹿児島県知名町の空家対策では、町役場の主導というよりは、各集落の字単位で地域の世話役の方がリードしながら進めるやり方が適しており、地域により空家再生も「郷に入っては郷に従いながら」、ソフトランディングの道筋を探りながら合意形成することが大切であると大久保さんから教わりました。
まさに目から鱗でありました。